第25話 本屋とコンビニでハッスルのこと

本屋とコンビニでハッスルのこと








「ヨシ!到着!!」




俺は2日間に渡って家に籠り、映画やドラマを堪能した。


時代劇縛りでだ。


いやあ、やはり時代劇はいい・・・


特に昭和の時代のものは余計にいい。


最近の時代劇はカメラの性能がいいからか、暗いところまでクッキリ見えるのでなんというか、興ざめするのだ。


フィルムカメラ特有の深い闇。


その暗闇に浮かぶ抜き身の刃のぎらっとした粘っこい輝き。




懐古厨と言われようがやはりいいものはいいのだ。




さて、そんな素晴らしい2日間を経た俺は、南区のはずれにある市内で一番大きい複合書店に来ていた。


ここは1階が通常の書籍、2階が漫画や美術書、そして3階がDVDやブルーレイ売り場となっている。


まさにここでだいたいのものが揃う、俺にとって素晴らしい本屋なのだ。


ゾンビが出る前にもちょこちょこ来ていたお気に入りの場所だ。




ここのいいところはいくつもある。




まず、店舗がでかいので郊外にあること。


ゾンビアウトブレイクはおそらく平日の昼間に始まったので、ここにいた客はあまりいないはずだ。




さらに、ここには本と映像媒体しか商品はない。


つまり、生活必需品は存在しないのだ。


よって、生存者がやってくる優先度はかなり低くなるはずだ。


食料そっちのけで本やDVDを探す。


そんな俺のようなもの好きはなかなかいないだろう。




思った通り、ほとんど車のいない駐車場に軽トラを停める。


木刀ヨシ!


昨日映画を見ながら作ったお手製手裏剣ホルダーヨシ!




さあ突撃だ。


イクゾー!




ちなみにホルダーは左手首に巻くことにした。




1階に入る。


電気の切れた店内は朝だというのに薄暗い。


思った通りだ、略奪された様子はない。




ライトで店内を照らしながら周囲を確認。


ゾンビの姿はない。




ヨシ!物色開始!!






『柳生の剣 その光と影』


『柳生流 その所作(DVD付き)』


おお、素晴らしい!こないだから柳生モードが来ている俺にピッタリの本だ!


DVD付きとはありがたい、詰め込め詰め込め。




『仕事がなくても大丈夫!おいしい野草の食べ方完全版』


・・・若干タイトルに引っかかりを覚えるが、役に立ちそうではある。


詰め込め詰め込め。




『忍術大全 流派から装備まで』


ふむ、暇だからニンジャでも履修しておくか。


詰め込め詰め込め。




『もしゾンビが出て来たら? サバイバル生活ガイド』


役に立つか立たないかはわからないが、面白そうなので持っていこう!


詰め込め詰め込め。




うーんいいね!


後は気になっていた小説をいくつか持っていく。






2階にやってきた。


今回は漫画に用はないのでスルー。


フロアの確認だけしておく。


クリア。


上に行こう。






3階。


ある意味今回のメインイベントだ。


俺の目の前には棚に所狭しと並べられたDVDやブルーレイ。


ああああ!!宝の山だ!!!


天空の城はここにあったんだ!!!!!




いかんいかん、焦ってはいけない。


はやる気持ちを抑えながら、じっくりと周囲を確認していく。


気配も物音もない。




よっしゃ!収穫じゃーい!!




このアメコミ原作の映画群はとりあえず全部持っていこう、この機会に全部履修しておきたい。


パワードスーツ社長とかアメリカのケツキャプテンとか地獄からの使者とかのシリーズだ。


・・・嘘だろこんなにあるの!?これだけでリュックの容量をだいぶ消費するな・・・


まあいいや、初志貫徹。詰め込め詰め込め。




興味はあったが見ていなかった映画や、パッケージを見て面白そうな映画はどんどん持っていく。


我ながらB級アクションが多目だな。


いいのいいの楽しいからいいの。


某エレベーター会社さんのリストとか名作なのはわかるけど、ああいうの見ると気が滅入るんだよなあ。




アニメ映画コーナーも周り、興味があるものを適当に見繕う。




・・・時代劇コーナー小さい、小さくない?


時代の流れを感じながら、新旧面白そうなものを詰め込め詰め込めぃ!


前から見たかった剣客ドラマシリーズのBOXをねじ込むと、それを最後に俺のリュックは仕入れ業者みたいにパンッパンになった。


今回はここまでにしとこう。


カンフー映画コーナーまで行けなかったのが残念ではあるが。




まあ今日明日でなくなるようなもんでもないし、店は逃げない。


また来ればいいさ、ここそんなに遠くないし。




1階まで下り、過去最高のホクホク気分で店を出た。






家まで帰る道すがら、コンビニを見かけたので寄る。


煙草のストック確保と、先日大量に消費してしまったお菓子バー的なものを探すためだ。


7時から11時まで空いていたという由来の店名を持つそのコンビニは、郊外にあることもあってか目立った略奪の跡はない。


お、アタリかなここは?




外から店内を見渡し、危険がないのを確認してから入店。


お邪魔しまーす。




おーすごい、生鮮食品や弁当以外は全くの手つかずだ!


煙草もどっさりある!・・・マンドレイクが少ないのは人気がないからだな、うん。


リュックは一杯なので、ベストのポケットに煙草の箱を詰め込み、カートンは抱えられるだけ持っていく。


どうせ人気がない銘柄なんだ、取り尽くしても問題あるまい。


一度軽トラに戻って煙草を下ろしたら再度入店。




えーと、バー的なものは・・・あったあった。


こっちもどっさりある。


色々な種類を3,4個ずつ全身のポケットへ。


それでもかなりの量だ。


俺のおやつにもなるし、避難所へ行く時のいいお土産ができたなあ。






由紀子ちゃんたちの喜ぶ姿を想像したまさにその時。




バックヤードの方から物音がした。


それと同時に、なにか長いものが飛ぶ風切り音。




瞬間的に伏せた俺の頭上を、シャッターを閉めるときに使う名称不明の棒が通り過ぎる。


それは回転しながらアルコールが並んでいる棚の戸に突き刺さった。




あぶねえ!気づけて良かった!




伏せた姿勢のまま、棚の影に移動。


胸ポケットに入れたバーが衝撃でぽきぽきと折れる感触がする。


うわもったいねえ。




レジの方から人の動く気配がする。


足音も聞こえた。


バックヤードからこっちに来るようだ。




数は複数。




「おい!出てこい!こっちは3人だ!勝ち目はないぞ!!」




ご親切にも声で位置を教えてくれた。


数はブラフの可能性もあるので信用しないでおく。




棚のスキマから確認すると、特徴的な制服の柄が見える。


このコンビニの店員かな?


だとしたら俺は盗人ということになる。




「すまない!まだ人がいるとは思わなかった!取ったものは返すから乱暴しないでくれ!必要なら金も払う!!」




言うと、そのままゆっくりと立ち上がる。


数は言ったように3人だった。


男が2人、女が1人。


全員コンビニの制服を着ている。


2人の男は鉄パイプにバンテージを巻き付けたもので武装している。




どうやら本物の店員のようだ。




「それだけじゃ駄目だ!表の車も置いていってもらう!」




リーダー格なのだろう、1番年上っぽい男がそう言った。




「は?オイオイオイそりゃちょっと暴利じゃないか?盗んだものは返すって言ってるだろ。」




「うるせえ!殺されたくなけりゃ黙って言うとおりにしろ!キー寄越せ!!」




今回は完全に俺が悪いのでちゃんと謝ろうと思ったが、さすがに車は置いていけない。


ていうかなんでみんな俺の軽トラを欲しがるのか。


町中にもっといいのがゴロゴロしとるだろ。




「すまんがそれはできない。あの車がないと困るんだ。」




「そ、そんなん知るかよ!死体からキーを取ってもいいんだぞ!!早くしろォ!!!」




高校生っぽいもう1人の男がしびれを切らしたように言う。


同時に、手に持った鉄パイプを振り上げる。




「おい、やめてくれ。攻撃はするな。さすがに反撃するぞ。」




それは看過できない。


黙って殺されてやるつもりはさらさらない。


・・・こういうのも盗人猛々しいって言うのだろうか?




「あああうるせえ!!もういい!!死ね!!!!」




若い男は完全にキレたらしく、俺に突っ込んでくる。


ちょっとこの町の人間、最近沸点低くない!?


こうなりゃ仕方ない。




俺は手首に巻き付けたベルトホルダーから手裏剣を抜くと同時に、そいつの太腿目掛けて投げた。


砥石で鋭く研いだ剣先が、若い男の左太腿に命中。


全体の真ん中ほどまでが肉に食い込む。


狙いは若干ズレたが、威力は十分だ。




「あぎっ!?!?!?」




若い男はバランスを崩し、書籍のラックに衝突し、週刊誌をなぎ倒しながらそのまま床に倒れた。


ちょうどいい感じに頭部を強打したのか、だらんと体が弛緩する。




「てっめ!!!」




もう1人が即座に動き出す。


荒事に慣れている動きだ。


思い切りがいい。




俺は店外へ顔を向け叫ぶ。




「ゾンビだ!!!」




思わず俺の動きに釣られ、外を見てしまった男の左肩に、手首のスナップで投擲した手裏剣が刺さる。


向けたのは顔だ。


視線は外していない。




「わぁっ!?」




予想外の痛みに叫ぶ男に肉薄し、右の蹴りを放つ。


遠心力で加速したブーツのつま先が、痛みに弛緩した男の腹筋に突き刺さった。


男は悲鳴を上げて倒れ、床に吐しゃ物をまき散らしてのたうち回る。




「ひっ・・・!ヒィイイイイイ!!!!」




残った女が床に座り込む。


腰が抜けたようだ。




「やめっこっ殺さないで!!殺さないでえ!!」




「・・・これは置いていく。」




喚く女から視線を外さず、ベストやズボンから各種バーを出し、床に落とす。




「邪魔したな、もうここには来ないよ。傷は大したことないから、死ぬことはないはずだ。」




女に声をかけ、男2人を視界の隅で確認しながら店から出て車に乗り込む。


すぐにエンジンをかけ、走り出した。






焦ったなあ、店員がいるとは思わなかった。


綺麗な店内を見て少しは違和感を感じるべきだった。


さすがにあの要求に従うわけにはいかないが、それでも後味が悪い。


完全にやってること盗人だし。




まあそれはいつもやっていることだが。




取ったものも返したし、許してくれないだろうか。


緊急事態だし。




今度からは店員がいるかどうかも確認した方がいいな。


余計なトラブルを起こしたくないし。






あっ・・・!煙草そのまま持ってきちゃった!!!


どうしよう・・・今更戻るのもなあ・・・




ま、まあアレだ、人気がない銘柄だし?


何より投げられた棒が当たれば怪我でもしていたかもしれないし?


後半向こうは完全に俺を殺す気だったし?


過剰防衛と窃盗で対消滅しないだろうか?




・・・しないだろうか?




どんどん行けない場所が増えてくるなあ・・・


今度DVDを調達する時は別の道を使おう。






自問自答しながら帰る途中、もう一軒コンビニを見つけたので寄る。


今度はしっかりと声をかけたところ、中から店員ゾンビが1体飛び出してきた。


さっくりと成仏させた後、店内を物色してお目当てのチョコバーやらなんやらを回収する。


さあ帰ろう。




なんか人間と会うのがどんどん嫌になってきたなあ・・・


ゾンビの方が楽でいいや。




人間としてアレな考え方をしつつ、さっきの煙草から新品を取り出して火を点けた。


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