第17話 ハーレム?野郎のこと
ハーレム?野郎のこと
結局、煙草をプカプカするエクソシストの名作映画を見てしまった翌日。
俺は近所のちょっとしたスーパーにやってきていた。
帰ったら同じ役者が殺し屋をやるアクションものを見ようかな。
目的は煙草と食料。
両方とも現在あまり不自由していないが、ずっと家にこもっているのは健康に悪いし。
たまには運動しないとな。
・・・なにかおかしいような気もするが考えないようにしとこう。
まあ、俺の吸ってる銘柄はあまり人気がないので、まとまった数がコンビニに置いていないことが多いのだ。
だから機会があればできるだけ確保しておきたい。
煙草って賞味期限あるんだろうか?
食料については十分な備蓄があるが、その、バリエーションに難があるのだ。
だからいろんな種類の調味料や缶詰があれば心と食卓が豊かになるというわけだ。
俺一人で消費する量などたかが知れているし、今回はちょっとした追加分なのでリュックに入るだけ持って帰ることにしよう。
「・・・よし!」
店内にいた2体のゾンビを成仏させつつ、周囲を伺う。
もうゾンビはいないな。
慣れてきたので手際が良くなってきた。いいことだ。
・・・いいことなのかこれ?
さて探索探索。
うーむ、やはり缶詰類は残り少ないなあ。
次に来る人が絶望して首でもくくると困るので、ちょっとは残しておこう。
おんなじ味ばっかり持って帰っても本末転倒だしなあ。
焼き鳥缶や鯖缶や鮭缶をほいほいと詰め込んでいく。
・・・カニ缶は真っ先になくなったようだな。
高級品だからしかたない。
うん。
調味料の棚から塩胡椒や味噌醤油を持っていく。
最悪これさえあればなんでもそこそこおいしく食える気がする。
真空パックのハムをいくつか見つけた。
おおお肉!食える肉だ!!
やった!賞味期限も大丈夫だ!!
これだけでここに来た甲斐があったな・・・
ラーメンに乗せようそうしよう。
卵は賞味期限を過ぎてもじっくり加熱すれば食える、と聞いたことがある気がする。
しかしあやふやな知識で食中毒になっても困るのでやめておく。
・・・この生活が長期化したら鶏でも飼おうかな。
郊外の牧場に生き残った鶏いるかなあ。
生鮮食品のコーナーは遠巻きに見ても悲惨な状況になっている。
ていうか見なくてもわかる。臭いで。
地獄めいた悪臭だ。
うどんとそばの乾麺を回収しつつ、帰りながらレジ近辺にある煙草コーナーにたどり着く。
俺の吸ってる銘柄が手つかずのまま残っていた。
人気がないからこういう時にありがたい。
ちなみに銘柄は『Mandrakeマンドレイク』ってやつだ。
俺は好きなんだが、市場的にも俺の周囲にもすこぶる評判が悪い。
友達なんか『呪われそうな味がする』なんて言いやがった。
いいんだいいんだ俺には最高なんだから。
つつがなく探索を終えたので帰るとする。
帰ったら映画何見ようかな。
久しぶりにアニメ系で攻めてみるか?
そんなことを考えていると、入り口に人影が見えた。
高校生くらいの集団だ。
先頭に男が1人、後ろに女が3人。
ガヤガヤと結構な音量で話しながら歩いている。
・・・危機感が感じられないな。
ずいぶんと楽しそうである。
ヘルメットのライトを消さずに歩いていく。
ゾンビに間違えられて攻撃されたら嫌だからね。
一応、用心にいつでも刀は抜けるように手を添えている。
木刀はリュックにマウント済みだ。
「・・・っ!そこで止まれっ!!」
やっと俺を認識した先頭の男が急に大声を出してきた。
やめろゾンビが寄ってくるだろアホが!!
なんだこいつ!?
「声を抑えろ、ゾンビが寄ってくる。俺に何の用だ。」
内心のイライラを押さえつけて、静かに声をかける。
手は刀にかけたままだ。
「あんた、ここらへんの人間か!?」
あっこいつ人の話聞かねえ!!
腹が立ったので、ライトの光量を最大にしてその男の顔面にぶち当ててやる。
男は目がくらんだようで悲鳴を上げた。
しまった逆効果だ!?
うわっすげえイケメンだ!なんか余計に腹が立つ!!
「そうだが・・・?だから何の用だ?」
「やめっ!やめろよォ!まぶしい!!」
ダメだ一向に話が進まない!!
仕方がないので光量を下げた。
「もう帰るところなんだが、何か用かな?」
「そこは近いのか!?」
「頼むから・・・声を抑えろって言ってるだろボウズ。」
なんだろう・・・すげえ疲れるわこいつの相手。
後ろの女たちはこっちを見てヒソヒソしてるだけだし。
ホントになんだこいつら。
「いいから!あんたの家は近いのか!?」
あっもう駄目だこいつ。
大分我慢したからもういいよね?
堪忍袋さんの緒の在庫もないし。
俺はそいつらに見えるように、ゆっくりと鞘から刀を抜いていく。
外からの光が刃に反射してぎらりと鈍い輝きを放つ。
そう言えば外で抜刀するのは初めてだな。
「いいか?よく聞けよ?さっきからうるさいんだよお前。ゾンビに食われたいんならお前だけでどうぞ。」
自分でもビビるくらい低い声が出た。
よっぽど腹が立っているようだな俺。
刀を見た連中がさすがに静かになって、男の後ろに3人の女がサッと隠れる。
左右の肩、腰にすがりつく手が見える。
千手観音かお前は。
えっなにハーレム?伝説のハーレム野郎なのこいつ。
・・・でもこいつがそんなにモテるのかな?
顔だけはいいが。
頭の方はかわいいワンちゃんのほうが100倍賢いと思う。
「静かにしゃべれよ・・・?で、4回目だがもう一回聞くぞ?」
「俺に、何の、用だ?」
子供に言い聞かせるように区切って言う。
さすがに身に染みたのか、男がキョドりながら話し始める。
「あ、あの・・・今日泊めてくれないか・・・?」
「嫌だ。断る。じゃあな。」
「えっ」
案の定そんなことか。
寝言は寝てからほざけ。
礼儀のなってない若造を泊める部屋はうちにはありません!
まあ基本的に誰も泊めるつもりもないんだけど。
俺の城ぞ?俺だけの城ぞ??
「い、いやあの、俺たち困ってるんだよ・・・中央図書館が避難所になってて、そこまで移動してるんだけど・・・このペースだと夜になっちゃうし・・・」
中央図書館はここから歩いてだいたい1時間くらいかな?
現在の時刻は2時過ぎである。
・・・余裕で間に合うじゃねえか!
カタツムリの化身か何かかこいつら!?
「そうか、大変だな。空き家なら山ほどあるからよりどりみどりだぞ。」
「そっそんな空き巣みたいなことできるわけないじゃないか!?」
んんんんんんんん~~~~~??????
何こいつのメンタリティ・・・こわっ。
空き家はダメで、俺に迷惑かけるのはいいのかというツッコミが出そうになるが、もういいや。
声に出すのもめんどくさい。
「知るか。悪いが俺の家には余分な部屋はない。がんばれよ若者。」
そう言って、そいつらがいるのとは違う入り口に向かってスタスタ歩き出す。
「待てよ!」
「待たない。なんか脳細胞がじわじわ死滅していく気がするからもう話しかけないでくれ。」
「なっ・・・!?」
男が小走りで近付いてこようとしたので、切っ先を向けて強制的に止まらせる。
その隙を突いて、入り口に向かってダッシュする。
後ろからギャーギャー聞こえるが構わず走り抜ける。
行き掛けの駄賃に、入り口に設置してある凄まじい悪臭を放つ果物コーナーの棚を蹴り倒して疑似バリケードに。
ぎゃあ!液状化した何かの野菜がブーツに付いた!!
ある意味ゾンビ汁より嫌だ!!
そのまま駐車場を横切り、軽トラまで一気に走る。
ああいうアホは話すだけ無駄だ。
スルーに限るスルーに。
運転席に乗り込みエンジンをかけると、反対の入り口から奴らも走り出てくるのが見えた。
「待てよ!!生存者どうし助けあおうと思わないのかよォ!?」
ふむ。助け合いかあ・・・
「ふっざけんなお前のはギブ&ギブだろ!!!!!!!!!!!!」
思わず怒鳴り返してしまった。
いかんいかん。
そのままUターンして道に出ればいいのだが、わざとそいつら目掛けて急発進。
明らかなオーバースピードに、奴らは大慌てで店の中に逃げ込む。
「ちょっと・・・!」「待ちなさいよ!」「停まってよ!」「待てよおっさん!」
やっとしゃべったと思ったらやっぱりこの女どもも同類かよ。
由紀ちゃんや雄鹿原さんの爪の垢でも煎じて飲め。
いややっぱいいや、拒絶反応で死にそう。
「やかましい!!!!!!のたれ死ねクソガキ!!!!!!!!!!!」
馬鹿どもに叫びつつ後輪を豪快に流しながらターンし、道に出る。
バックミラーで奴らの絶望顔を確認しつつ、さらにアクセルを踏み込んだ。
ギアチェンジも俺史上最高の手際だ。
・・・あいつらがいるかもしれないからしばらく近所の探索はやめよう。
北区に行くようにしよう。
あっ、向こうにも金髪のアホがいたわ。
アホとのエンカウント率高くないか俺。
由紀ちゃんたちがいかにいい人間であったか再確認した。
今度こっそりチョコを差し入れてあげようそうしよう。
あああもう疲れたあああああ!!!!
物資がなくなってきたらあんなのがもっと増えるんだろうなあああ!!!
もうやだ拙者アホの相手やだあ!!!!!!
・・・今日は元気の出る映画を見ることにしよう!
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