第6話 地理と探索計画のこと

地理と探索計画のこと








初探索で手に入れた煙草をソファーに寝転がって堪能する。




ああうまい、たまらない。




たちまち思考がクリアになってくる。


落ち着いたところで改めて周辺状況を考えよう。






俺の住んでいる町の名前は『詩谷うたや市』だ。


県内第二の人口20万人ちょいのいわゆる地方都市。


県のほぼ中央に位置し、市の南北が大きな川によって区切られ、北区と南区に分かれている。


俺の自宅は南区の最も北寄りにある小規模な住宅街に位置している。


コンビニに行くときに通った土手の反対側に下りると、河原とちょっとした公園がある。


電車網はあまり発達しておらず、県庁所在地や南の都市に行く路線しかない。


市民はもっぱら車かバス、タクシーを利用している。




俺の徒歩圏内には、今日行った青白制服を含めてコンビニが4軒ある。


そしてドラッグストアが1軒と、小規模なスーパーマーケットも。


こうして考えると、俺が生きていくだけなら十分な環境だな。


都会バンザイだ。


え?都会じゃない?うるせえ電車とバスとタクシーがありゃ都会なんだよ!






その時、フッと電気が消えた。




「おわっ」




窓をすべて締め切っているので昼間なのに真っ暗だ。


あわてて手探りで卓上スタンドのスイッチを入れる。


全く反応がない。




「あ~・・・停電かぁ」




今日はゾンビと初遭遇してから4日目。


発電所に何かあったか、それとも送電線か。


どちらにせよこれで電気は止まった。


冷蔵庫の生モノを食い尽くしておいて助かった。


町にも同様のことが起きていれば、生鮮食品や冷凍食品はすぐにダメになっていくだろう。




ジッポライターに火を点け、仏壇の棚からろうそくを取り出す。


着火し、適当な皿に立てる。




「意外と停電って早いんだな・・・」




ろうそくの火で二本目の煙草に火を点けながらこぼした。




さらばdvd。


さらばゲーム機。


これからは薄明りで本でも読もうか。




今後の探索では、保存食や缶詰を積極的に見つけていく必要がある。


学校とか役所とか病院には備蓄があるんだろうが、そういうところは十中八九生存者の避難所になっているだろう。


前も言ったが合流するつもりはまだない。


一人が気楽すぎるのが悪いのだ。




それに、ああいうところに俺のような見るからに元気な独身男性が参加したらどうなるか?


絶対に面倒な力仕事や物資探索を『強制』されるだろう。


自分のためにやるのはいい。


だが、見も知らぬ他人のために苦労するのはあまり好きではない。




『若いんだからやれよ』


『何事も助け合いだぞ』


『若い時の苦労は買ってでもしろって言うだろ?』




働いている時によく言われたもんだ。


今なんかもっと言われる。死ぬほど言われる。間違いない。


無職なのに働くのはごめんだ。




それも嫌だから一人が最高なのだ。


必要な食料も物資も少なくてすむ。


余計な責任を背負いこむこともない。


病気にでもなって動けなくなったらそのまま大地に還ってやるわ。




いくらああいう施設に自家発電機があって、電気に苦労しなくていいとしても嫌なものは・・・




・・・自家発電機?




そうか、そういう手があったか!




前にホームセンターで売っているのを見かけたぞ!


あれがあれば電気が使える!dvdもゲームも現役に戻れるぞ!


ホームセンターなら、スマホ用のソーラー充電器みたいなものも売っているはずだ。


通信機能は不通だが、インストールしてあるスタンドアロン式の地図アプリはぜひとも使えるようにしておきたい。


携帯用ガスコンロはここにあるから、燃料のガスを調達すればこれも使える。


保存食や災害用物資も置いてあったはずだ。


おまけに灯油やガソリンも敷地内のスタンドにある。






・・・なんてこった、絶対無敵で勇気爆発じゃないかホームセンターは・・・






明日が晴れなら早速行ってみよう。




鳥のマークでおなじみのホームセンターは市内のいたるところにある。


その中でも比較的自宅に近く、大規模な所は川を渡った北側地区にある。


だいたい車で20分ってところだったな。


近所のジジババにあちこち買い物代行に行かされていたから、そこら辺の土地勘はばっちりだ。




距離と予想される荷物の多さから、徒歩では厳しいだろうな。


だが、車ならガレージに2台ある。


おやじの普通乗用車と。






釣り用の軽トラックが。

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