未来のこと。

 死にたい。

 中学生の頃からずっとそう思っていた。


 未来の自分へ手紙を書くという授業、きっと誰しもが、経験があるものだと思われる。


「〈20歳の私へ〉、〈〇年後の私へ〉。どんな未来でもいいですよ、想像して書いてみてください」


大量に刷られたお粗末な便箋を配る教師の声が、憎らしく頭の中で反響した。


 当時の私は子供ながらに、こんなにも無意味なことはないとわかりきっていた。なぜ未来の自分が当たり前に生きていると思えるのだろう。事故で死ぬかもしれない、誰かに命を奪われるかもしれない、自分でその道を断つかもしれない。未来への道に確約はない。それなのに、面倒くさいと言いながら談笑して書き進める友人たちも、ニコニコと貼り付けた笑みで机間巡視する教師も、不明瞭な世界に畏れの欠片も抱いてはいなかった。


 私は「どうせ死んでるからテキトーに書こう」と、あいうえおとABCと、思いつく限りの記号を書いた。友人たちには「らしいなぁ」と笑われたが、その友人たちが誰だったのか、顔も名前も思い出せない。


 かつての私が今の私を見たら、なんて言うのだろうか。驚きで心臓が止まって、それこそ死んでしまうかもしれない。なんで生きているんだと、そのショックできっと息ができなくなるのだろう。


 死にたかったさ、許されるなら。不安とともに生きるより、死んで解放される方がずっと楽だ。この世のすべての人間の、苦痛や嘆きを引き受けて、そうやって、苦しみながら死んで行けたら、償いになったのかもしれない。でも、そんなことは叶わないと、時間とともに悟ってしまった。そして、そんなことを考えている間にも、生きるべき誰かがこの世を去るのだ。私ではない、他の誰かが。


 死にたい。その言葉だけが、変わらず私の中にある。この思いだけが、私が生きる理由になる。死にたいから、生き続ける。

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