第7話 話を聞いてもらうのにも才能が必要だ
『被害者や事件に関して何を考えているのか』
流れの早いコメント欄の中でもかなりの数あったもので確かに一番最初に話すべきものではあったが関わりの薄かった人間としては発言しづらいものがあった。配信前に名前を検索しても出てくる内容はニュースだけで他にめぼしい内容のものもなく話せる内容に活かせるようなことはあまりなかった。それでもある程度は自分なりの意見をまとめようとニュースを見返していると彼女が文系の大学生であり周りからの信頼と明るい性格であるという話はどの人からも出てきていた。
インタビューで答える内容のため信憑性はわからないが、そこに頼るほかなくその視点からの意見を述べていくしか無い。
「被害者の方についてお話させていただくと同じ年齢であり、また大学に行かれているということもあり学びたいことのために努力していたのではないかと思います、同じように大学に通われている同級生を知っている人間としてはこの時期の授業は大変であり周りとの接触も控えているとなると相当ストレスを溜めていたものと思われます。」
「それを踏まえた上で事件についてどう思っているのかを述べさせていただくととても悲しい事件であり、いち早く犯人が捕まることを願います。被害者女性に関わらず殺されていい人などいないため、犯人の捕まっていない現状でのお一人での行動や夜遅い時間帯の出歩きは控えるのが良いと思っています。」
『ヤッた時のこと聞いてるんだよ』
『内容薄っぺらくない?』
『ペラペラ回る口だな、喋るなよ』
『需要を理解してなくて冷める』
いろいろなことを言われているが殆どは求められた内容ではなかったのか冷たい言葉がぶつけられていく。
話せる内容の薄っぺらさは理解しているつもりで、その上で考えたこの内容は人の恨みを買わないようにいろいろ考えた上での発言ではある。被害者を貶めるようなことはせずに頑張っていることを伝え、事件に関しては早く解決することと視聴者に対し気をつける旨を伝えた。
確かに聞きたい内容とは違っただろうが関わりもないため伝えられることは早期解決と対策くらいだったが評価はされなかったらしい、仕方ない。
これに関する質問はないだろうとたかをくくっていると変な質問が書き込まれた。
『あなたは言い返さないのですか』
答えに困る、というか答えられない内容だった。今この疑いの目の中で悔しいなどと言ってもストーリー性なんて知れていて自己保身のための演技と思われてもおかしくない。
答えられないが気持ちを汲み取ってくれるようなコメントが来たことに配信の価値を見いだせる。
もしかしたら知り合いのコメントかも知れないが理解をしようとしてくれる人がいれば心の安定にもなる。
「聞かれていることに対して答えとしてあっているかわかりませんが事件と被害者に関して説明させていただきました、言葉が足りない部分もあるかも知れませんがその都度ご指摘等いただければと思います。また話した内容に関して質問等あればお願いします」
質問の催促を促したが言うまでもなくコメント流れが早くなっていく、質問に答えている間にも時間が立っていてその間にも視聴者は増え続けている。質問形式が良かったのかはわからないが先程より理性的な言葉が増えてきており、事実の気になる人がこの配信に来てくれているのだろう。
信用とは言えないが聞かれているということは答えを求めてるということで気概がある。もしかしたら記事を書く人たちが来ているのかも知れないが、そんなことはわからない。
少しの間他に気になるコメントが来てないか見ているといくつか具体的なことを聞かれていた。
『被害者が○されている時何をしてましたか』
『なぜ被害者のスマホに写真が入っていたのか答えていない』
『そもそも家でなさすぎだろ』
最初にまとめていた質問内容とかぶってはいるがたしかに順番的に正しい質問だった。ただ何から答えるべきか迷うところがある。家でなさすぎに関しては同意しか無いし、スマホに入っていた写真に関してはこちらが聞きたいほどだった。そして一番重要だったのが被害者が○されていた時に何をしていたか、答えようによっては容赦なく叩かれる質問だ。しかし発表されている内容だと腐敗が進んでいるほど前だったと書いてあり具体的な時間はわからない。
聞く側もわかってて質問しているのだろうが、こちらの対応を見て楽しみたいのかそれとも犯人だと思われて引っ掛けるつもりなのか、両方かもしれないが趣味が悪い質問で答える以外に選択肢のない質問だった。
「今しがた来た質問に被害者が亡くなられた時間に何をされていたのか、それに関してお答えさせていただきます。前置きとして現在ニュースなどで報じられている内容では時間が曖昧であり少し遡るため直近の出来事などを話させていただきますが。何を食べていたか、何時頃に寝たかなどの細かい部分に関しては憶えていないこともあるためお答えを控えさせていただきます」
とりあえずこれだけ言っていれば曖昧さ回避とは言わないまでもそこまで追求されることも無いだろうとコメントを伺う。
『OK』『はよ』『いつ頃ボロだすん?』『誠実なお答え待ってます』
調子は良さそうだ。
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