第5話 配信を始めた

配信をしようと思い何を準備をすればいいかを考える。


配信するにも時間や内容、機材と行った様々な問題があり、どれか一つが欠けると説得力が無くなったり動画が固まるといった事態になり、それは継続的な視聴に繋げられず相手に叩く隙を与えることにつながる。


「何から考えよう…」


平常心を保つためか独り言が増えてきているが社会人なりたての時もこうなっていたとあまり重くは考えなかった。とりあえず機材の問題から解決しようとどれぐらいのスペックが必要か調べる。長時間配信は流石にスマホでは心もとなく、少し値が張るものを用意しようと物色している時に春が配信をするために買ったパソコンを思い出す。


十数万もするデスクトップだ、あれなら何をするにも支障はないだろうと借りることにした。考えてみれば今からパソコンを買ったところで届くのがいつになるのかはわからず、受け取るためには外に出なければならない。準備の段階から詰んでしまうところだった危ない危ない。




機材の問題は解決したが残りが本題である。内容だった、無実なりにアリバイやお隣と関係ないことを証明すればいいのだろうが、信頼のない私では信じてもらえないだろう。そう考えると信頼を取り戻すことから始まるが一朝一夕ではできることは少ない。配信で聞かれたコメントにどれだけ誠実に対応できるかで勝負しようと考えた。


所詮配信初心者に出来ることはたかが知れていると思うが、仕事の辛かった時は推しを見て耐えていた人間だ。炎上した時も高評価されていたときの配信だって見ている。その際の推しの行動と周りの言動を思い返せば活かせる気がしてくる。






パソコンを起動しアカウントを春と自分のを切り替える、配信開始ボタンを押す手前まで準備を整え、始める環境はできた。




「…………」




このボタンを押すときっといろんな人々が面白いもの見たさや悪者を裁くために来た者が集まり傷つくようなことを書き込んでいくのだろう、それは相手がそうしてもいいと思っている証であり、現実として揃っている情報は自分を悪者だと責めている。推しのような立ち絵と気分の良くなる名前を使ってやりたいがそれでは意味がない。


この配信は自分の無罪を認めてもらうためでありそのためには実名の公開と顔出しが重要である。本人だという証明と誠実さを見せるための担保、視覚の情報とはそれだけ重要であり大切なことだ。


配信告知は日和ってしていないがそれでもトレンドに上がるくらいだ。すぐさま広まり人が集まるはずだ。


その証拠に待機画面には既に80人ほど集まってそれぞれがそれぞれの苦言を呈している。




『釣りでなにを見せてくれるのか楽しみ』


『きたきた待ってたこういうの』


『なにこいつ生きてんの○ね』


『は〜や〜く〜はやくしてくれよ』




今の段階で信じてる人は少なそうだが顔が割れている身であれば写った瞬間に事実確認が取れるだろう。


覚悟が折れてしまわないうちに始めようと決心し配信開始ボタンを押した。




「あ〜〜〜〜、聞こえてますでしょうか、音量調節なども含めてコメントしていただけると助かります」




『あれ???本人きた??』


『まじかよ拡散しなきゃ、逃げるなよ』


『声きったな』


『おもしれーやつだな』


『どんな内容なのかwktk』




反応はすぐ返ってきたが調節やハウリング等のコメントはないため音量はこのままでいいらしい。


出だしはそこそこ、ここで大きい失敗をしないだけ評価につながると考えよう。後にアーカイブを残すことを考えたらコメントを動画に残すか考え、とりあえず乗っけておく。


そうしている間に視聴者が急に2百人ほど増えている、まだ開始から一分も立っていないのに、ネットとは怖いものだ。




「配信に来ていただいたきありがとうございます。


まず、今回配信をする理由をお話する前にこの度亡くなった黒子玲奈さんにお悔やみを申し上げます。」




軽く目をつむり頭を下げる。本題に入る前に一番重要な部分だった、いくら自分に関係ないとは言え今回の出来事で一人人が亡くなっている、順番を間違えればたとえ信じてもらえようと悪印象は残るだろう、自分の行動が正しかったのか確認するために目を開きコメントを確認する。




『礼儀いいかよ』


『なにこいつ頭湧いてんの』


『早く本題入れよカス』


『善人ズラしてて楽しい?弁解たれてとっとと地獄で詫びろ』




人数が増えてるせいかコメントの切れ味が増している。周りの反応としてはこれが正常だと思うが結構辛い。


ようやくスタートラインに立てたところだった。

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