第2話 外堀が出来上がっていく
『こいつ憶えてるぞ、名前は冬、やっぱりやらかしたんだな』
そんなコメントを見て考えたことは『やっぱり』の部分だった、もやもやした気持ち悪さが視線のように感じ過去の行いをこの一言ですべていいように解釈してくれと誘導されている気がする。
がしかし名前を書いているあたり知り合いなのだろう。どういった気持ちで書いているのかわからないが、流れを作ろうとしている人物がいる。
心当たりは山ほどある、【小さいときの自分】と割り切り、振り返ることですら恥ずかしく思えることをしていた。バカにされては引き返せずボコボコにされる、仕返しとばかりに小さなミスの揚げ足をとるような言動。
そんな器の小ささと醜い思考で恨まれるようなことをしてしまい謝ることすら出来なかったときもある。
自覚があったのと叱ってくれた人がいたおかげでマシにはなったものの未だに自分の性格の悪さに辟易していた。
過去の行いがそのまま信頼に直結している、このコメントを見ているとそう言われいる気がしてならない。
5分ほど考え、気持ち悪さが喉元を少し通り過ぎようとしていた時、掲示板を更新しているとコメントが増えていた、内容としては
『どこからの情報?架空人物で盛り上げる感じ?』
『知ってる人多くない?話が早い』
『事実はともかく人が増えてきたから続き気になる』
名前、写真、謎の内部情報、増えていくコメント、話題に火のつく要素が溢れている、止めようにも凡人に考えられることでは油を注ぐことしか出来ないと、黙って見ることしか出来ない、喉元の気持ち悪さがとどまり続け嫌な汗と思考ばかりが駆け巡る。
家の近くにいるカメラマン、掲示板の情報、この流れの速さに考えるべき事がわからなくなる。
自分がなにか悪いことをしたのか、どうすればよかったのか、仕事をやめていなければこんなことにはならなかったのではないか、過去のタラレバに思いをぶつけ現実逃避をする。
見たくもない掲示板に流れが変わるような救いを求め更新ボタンを押し続ける、自分の名前を書き込んでた奴が過去起こした内容を書き込んでいく。それぞれはとるに足らないような子供の悪事でも積み重なればそれは評価になる。
偏ってるとは言え事実混じりの物語は熱を帯び周りの妄想は一人歩きをしていくだろう。
何もなすことが出来ない悔しさに自然と小さい器と醜い自分が溢れ出す。
好き勝手に言う周りも見ているだけの自分もすべてが嫌になる。
嫌気で内容を正しく認識できなくなりそうで、臭いものに蓋にするような形でページを閉じた。
外にも出れず、家の中で現実逃避とゲームを開いてみたがどうにもそんな気分になれない。夏休み最終日のような焦りで集中できず癒やしを求め配信サイトを開くと、するとすぐ現れる見出しが。
『悪魔の所業か〜JD殺害事件についてリーク情報が!!犯人特定か?』
どこを見ても回り道をされているようで安らぎの場はないのだと実感する。気がつけば一日が終わろうという時間になっていて、食欲はわかないが胃液が責めている。しかし体が動かない。
気がついたら布団から出れず、眠くなるわけでも落ち着くわけでもないがここにいた。
ふと防衛本能か小さい時を思い出す、小学高低学年で仲が良かった女の子と遊んでいた頃だ。。
名前は林恵利はやし えり、ポニーテールで小学生らしいスリムな体躯と身長は変わらないくらいだったのを覚えている。
格好はお兄さんを憧れとしているのかタンクトップにオーバーオールといったアクティブなスタイルだった。
物覚えが早く運動は何でも出来ていた、小学校入学時点で家が近く、どこに行くにも何故か連れ回され気がついたら仲良くなっていた。
活発で雨の日も遊びに連れ回されたり、学校終わりに家が近いからと連れ込まれてアニメを一緒に見ていると女の子のお兄さんが帰ってきて怖かったことを思い出す。
その頃の自分は小学生でお兄さんは高校生と大きかったのもあり怖かったが女の子がずっと隣から離れないため動きたくはなくそのままにしているといつの間にかいなくなっていた。今考えると品定めみたいなものだったのだろう。
最初こそ体力の違いや遊ぶ頻度で鬱陶しさを憶えていたが、慣れてくるとそんなことも感じなくなり居心地が良くなっていた。
なんだかんだ二年が経とうとしていてすっかり遊ばない日のほうが少なくなっていた、また同じクラスになればいいな、そんな考えでいると学級が上がろうかという時に恵利が引っ越すと先生が発表した。
突然のことで何を話せばいいのかわからず行く先も聞けなかったのを思い出す、引っ越す直前は何故か遊んではくれず逃げられていた気がする。
お見送りだけでもと思ったが、恵利の親が忙しいためかそんな事はできないらしく、親同士の話しで終わり、気がつけば引越し当日となっていた。お別れも言えずじまいでもやもやしていると、親から手紙と一緒にこう言われた「恵利ちゃんからこれ渡してくださいって、本当に仲良かったわね」とニヤニヤしながら言われたが嬉しさと恥ずかしさで嬉しさが上回り手紙を開くとデカデカと大きくきれいな字で『すきです』とかかれていた。
嬉しかったと同時に気持ちを返せないことが悲しかった、ずるいとも思ったが嬉しい気持ちでいっぱいで一杯で今でも思い出として色褪せない記憶だ。
今は何をしてるんだろう……そう考えていると力んでいた体から力が抜け、睡魔とともに意識が落ちた。
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