第32話
訓練所での訓練を一旦終えることにした僕たちは、
「絶対膝枕してもらってたよなあ、何故ハッキリ覚醒しなかったんだ僕は……!」
「まだ言っているのですか、私が膝枕したのか、しなかったのかは秘密と言ったではないですか。私が真実を話すまではどちらなのかは分かりません。つまり、シュレディンガーの膝枕です」
「シュレディンガーの膝枕……」
何が何だか分からない。首を傾げていると、見知った顔が現れた。
「おや、二人ともお久しぶりですね」
「クリケットさんがここにいるなんて珍しいね」
「いや自分もそう思うほどに、最近忙しかったですからね……」
苦笑するクリケットさん。
「なんだっけ、確かSF系世界が滅亡した影響だったっけ?」
「そうです。流石に一つの世界が滅んでしまうと、狭間の世界への流入もえらいことになるんですよねぇ。特に、今回の滅亡は世界を二分した戦争が元になってるもんですから負の感情も桁違いでして。暫くはこの問題は続きそうですよ」
「大変だなあ」
「何を他人事な感想言ってるんですか」
「え、だってまさに他人事では?」
はあ、と傍でシリエルさんがため息をついた。
え、なんですか、シリエルさん。
「トオル、SF系世界の滅亡は覚えていたのに、あれは忘れたのですか」
「あれ? なんかあったっけ」
「セーフティゾーンの水ですよ。【聖域】で濾過したではないですか」
「あー」
なんか【聖域】のひねった使い方やったなぁ。僕ののんびりとした感想にクリケットさんが肩をすくめる。
「成程、
「はい、あの時はですね。その後、科学技術の暴走の原因が戦争によるものだったことが判明し、その結果として想定よりも多大な澱みがうまれたのです」
「迷宮の各所で様々な影響が出ているんですよ。水の問題もありますが、そろそろ六階層へ潜る予定のトオルさんはもっと関係する事があります」
「なんですか、それ」
「【再構成】です」
クリケットさんが右手の指をぴっと立てる。イケメンはそんな仕草でも様になるのがうらめしい。
「澱みが溜まり過ぎた時にまれに起こる現象。【再構成】は、迷宮の内部構造が激変します。砂漠だった階層がいきなり雪山になったり、マッピング終了間近だった階層がまったく新しい迷路になったり……
「え?」
「数年単位の現象が、これからは下手したら数日おき、もしかしたら数時間おきに起こるかもしれません。今回の澱みが拡散するまでは、少なくとも【再構成】の現象は続くでしょう。【再構成】は澱みの濃い階層、つまり最深部に近い所が起こりやすいので、浅い階層ではそこまでないかもしれませんが、何が起こるか分からないのが迷宮です。トオルさんも十分に注意してください」
「天災みたいなもので注意しようがないような気がするんですが……」
「心構えしとくだけでも大分違いますよ」
「食料やポーションを余分に持って行く方がいいかもしれないですね」
「なるほど、雪山で遭難するようなものか」
「その例えもどうかと思いますが、まあそんな感じです」
「有難うクリケットさん、情報助かりました」
「いえいえ、では迷宮探索ご安全にどうぞいってらっしゃい」
クリケットさんと別れる。
「さて、ここでシリエルさんの【
ダイバーズウォッチの画面に、
「はい、しっかりと準備していきましょう」
「ごめんね、後でお菓子買っていいから」
「支援精霊はお菓子には釣られません」
「この前、僕が泣くほど無限にパンケーキ食ってたのはどこのどなたでしたっけ……」
「あれは支援精霊のエネルギー補給です」
「補給」
「補給です」
シリエルさんと駄弁りながら、僕は
ちなみにシリエルさんは、ファンタジー世界の砂糖菓子に心奪われてしばらく微動だにしなかった。三個で勘弁してもらった。
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