第28話

【帰還門】から【街】に戻ってきた僕は、そのまま真っ直ぐに玄関口ポータルへと足を向けた。建物入り口に近づくと、両開きの扉の近くに水色の髪の毛の美少女が佇んでいるのを見つけた。


「シリエルさん、待った?」


「はい」


「そこは『ううん、今きたとこ』って言うべきところだと思うな」


「トオルは常時変なことを言いますね」


「安定のシリエルさんだ……」


 金色の瞳がキョトンとした表情で僕を見つめてくるんだけど、【精霊躯体エレメンタルフレーム】のシリエルさんは超絶美少女過ぎて心臓に悪い。胸がときめくどころか破壊されそうだ。


「ところで、これからどこに行くの? とりあえず合流しましょうとしか聞いてなかったけど」


「訓練所です」


 そう言うとシリエルさんは、フワリと髪の毛をなびかせながら歩き出した。【比翼なる者達】サポーター職員の白い制服が今日も反則的なくらいに似合っている。


「トオルが取得した新【技能スキル】は、扱いが難しいので迷宮でいきなり本番使用は危険すぎます。まずは、この【街】で慣れておいた方がいいと判断しました」


「それで訓練所……どういう所なの?」


 シリエルさんに追いついた僕は、隣に並びながら尋ねる。シリエルさんからフワリといい匂いがしてきて幸せマックスになるが、顔に出すと怒られそうなので真面目な顔を保つ。


「ヘイ、シリエルさん。どうして無言で離れるのかなあ?」


「勘でしょうか」


 無駄に鋭い。


 しばらく歩くと、円形の建物があった。ちょうど玄関口ポータルの裏辺り。小さなコロシアムみたいな雰囲気だ。


「ここは【潜る者】ダイバーの【技能スキル】検証や戦闘訓練目的に造られた建物でかなり頑丈な構造となっています。最深部に潜る【潜る者】ダイバーであっても破壊は不可能なのだとか」


「へー」


 受付でダイバーズウォッチをかざして認証を受けて中に入る。受付の女性が可愛かった。今はちょうどガラ空きらしい。


 建物中央にあるスペースはドーム球場くらいの広さだった。これなら、どんな訓練でもできそうだ。


「新【技能スキル】検証ってどうやるのかな……って、何してるのシリエルさん?」


 周りを興味深く見回していたら、シリエルさんが軽く腰を捻って準備体操をしていた。


「何とは? 検証と言ったではないですか、トオルはちゃんと聞いていたのですか」


「いやいや、まさかシリエルさんを相手に【技能スキル】検証するの!?」


 驚く僕を気にする事なくシリエルさんはいつの間にか用意していた細い剣を軽く振った。


「!」


 風圧が訓練スペースに土埃を舞い上がらせた。咄嗟に顔を風圧から庇った腕の隙間から、細い剣をクルクルと巧みに操るシリエルさんの姿が見えた。


「大丈夫です。支援精霊ではありますが私も少しは戦う術は持っています。トオルの検証相手をする事は可能です」


 少しはって……なんか無茶苦茶できる剣士の風格があるんですが!? おかしい、支援精霊なのに主人公らしさがハンパないぞ、うちのシリエルさんは。

 これは最終的に僕がボコられる展開になりはしないだろうか。そんな恐怖を感じて躊躇っていると、シリエルさんが不思議そうに首を傾げた。


「そろそろ始めたいのですが、あまり気乗りしてないような感じがしますね」


「え、そ、そうかな? 実はちょっとお腹が痛くなってきてさ、いやー体調不良なのかんがぐごごご!?」


「訓練所で無料で使える回復ポーションです。治りましたね、さあ、やりましょうか」


 シリエルさんのやる気がみなぎっておられる!


「ふむ、まだいまいちトオルのやる気が見えませんね」


 あかん、これは何としてでもここから脱出せねば回復ポーション前提のリンチが始まりかねない。シリエルさんの隙を見て……。


「そうですね、わたしに一度でも攻撃を当てたら何かご褒美をあげることにでもしましょうか」


 ……ほほう?

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