第27話

 迷宮深度:4

 潜心:2

 潜技:3

 潜体:2


 【聖域】:1



 迷宮第四層。


 石畳を砕き割るほどの力強さで通路を駆け抜ける僕は、背後から迫ってくる影獣エイジュウの気配に急ブレーキをかけ右側の石壁に背中を貼り付ける。


 僕の急制動に対応できず石壁に背中を預けた僕の目の前を通り過ぎる狼型の影獣エイジュウ。こんなチャンス逃がしはしない。


「イクイップ」


 左手首のダイバーズウォッチの表面に右手の二本指を置く。


「スワイプ!」


 右手を振りぬきながら、出現した中剣で影獣エイジュウに切りつける。青白い陽炎を残し、影獣エイジュウが消えていく。


「追いかけてくる影獣エイジュウはもう終わり……かな?」


 ふうと息をつく。

 群れをなす狼型の影獣エイジュウと運悪く出会ってしまい、出会い頭に1頭倒しはしたものの階層内を追いかけられまくり、今やっと最後の影獣エイジュウを倒し終えた。一対一で戦う事ができるように有利な状況になるまで撹乱するために走りまくり、隙をついて一頭ずつ時間をかけて倒していった。ハーフマラソン分の距離は走った気がする。途中、ゴリラ型も二匹混じった時は泣きそうになった。超頑張った。


「癒し……癒しが欲しい……具体的にはシリエルさんの魅惑の太ももで膝枕してもらって丸一日寝てみたい……」


 ピュアな欲望が無意識に口に出てくる。良きアイデアだと思って「ヘイ、シリエルさん」とコールしたが、いつもは即応答してくるシリエルさんがまさかの無反応だった。


「ダイバーズウォッチめ、音声認識壊れてるんじゃあるまいか」


 パシンパシン叩いてみたが、シリエルさんの応答はなし。む、叩き方が足りなかったか。


『ダイバーズウォッチを叩かないでください』


「あ、シリエルさん。音声認識おかしくない?」


『あまりの気持ち悪さにスルーしてました』


「そですか」


 すん、と鼻をすすってしまった。悲しくなんかない。


『それにしても先ほどの影獣エイジュウの群れとの戦闘は大変でしたね』


「そうだね。もうちょっと僕に力がつけばもっと楽に倒せたかもしれない」


『六階層以降に潜るのなら、それぐらいの力がないと厳しいですね。もちろん今でも戦えはしますが、今一つ安定さに欠けています』


「うーん」


「力をつけたい」といえば、一番分かりやすいのは攻撃力、だろう。しかし、影獣エイジュウと一対一の戦闘では二回も攻撃を当てれば倒せてしまっている。攻撃力が不足しているわけではないのだ。

 一対多での戦闘で苦労しているのは、複数の相手と同時に戦う状態にしか持ち込めてない事、複数に一度に攻撃できる範囲攻撃や遠距離攻撃が出来ない事だろうか。


「やはり、今こそ【技能スキル】で遠距離攻撃手段を得る時か……?」


 以前、思い浮かべた【火球】や【水槍】の「ぼくのかんがえたさいきょうわざ」を思い出してニヤリとする。あれは格好良かった。両手をポケットに突っ込んで、【水槍】を背後に十数本出現させたい。燃える。


【潜る者】ダイバー名を【漆黒ノ堕天使♰トオル♰】にでもしておいたほうが良かったのでは?』


「やめて」


 古の封印した記憶が蘇っちゃうでしょ。まだ大丈夫、僕の右手は疼いていない。


「それはそれとして、次の【技能スキル】取得する機会が合ったら【火球】か【水槍】を選びたいんだけど、シリエルさんどう思う?」


 シリエルさんの意見を聞いて参考にしたいと思い、僕はシリエルさんに尋ねた。


『そうですね、私としては別の【技能スキル】を取得することを提案いたします。今の段階で【火球】や【水槍】を取得すると、接近戦の経験が得られにくくなります。迷宮は奥深く、潜るにつれて、遠距離戦闘だけでは凌げなくなる時が必ず来るでしょう。接近戦の練度は上げておくべきです。となれば、低階層から安全に確実に経験を積む事が望ましいです』


「なるほど」


『接近戦で効果を発揮する【技能スキル】を取得しましょう。今の攻撃力と組み合わせれば、戦闘時間の短縮ができます。複数の影獣エイジュウであっても、各個撃破ができるようになっていくでしょう』


「一体一体確実に減らすことができれば、複数であっても怖くないか……うん、わかった。シリエルさんの意見に従って次の【技能スキル】は選んでみるよ」


『ではインフォメーションを開いてください』


「ん?」


『先ほどの戦闘で、潜体が「3」に上がりました。【技能スキル】獲得条件を達成しています』


 シリエルさんの響いてくる声に、急いでスワイプってインフォメーションを表示する。


 迷宮深度:4

 潜心:2

 潜技:3

 潜体:3


 【聖域】:1


 と、同時に取得可能【技能スキル】一覧がズラリと表示される。


「おおおおおお!」


 歓喜の雄たけびをあげる僕に、シリエルさんの声が重なる。


『では、今から言う【技能スキル】を選んでください。【技能スキル】名は――』

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