第19話
「――私達は、幾星霜が過ぎるほどに
「もちろん目指します。最深部に到達するまで、僕は迷宮に潜り続けます。その決意は変わりません」
即答だった。クリケットさんの言葉を噛みしめる時間も、その事について考える時間もいらなかった。
「急ぎすぎではないですか?」
「もう決めた事です。僕には『無かったことにする』以外の選択肢はありえません」
「ショウコさんですか?」
僕は頷いた。
「僕の死が無かった事になるのなら、ショウコの死も無かった事になる。正直、僕だけの問題だったら、五階層までたどり着く間に、いや最初の戦闘の時に心が折れていたかも知れない」
もしかしたら、今も門の前で迷っていたのかもしれない。
「だけど、ショウコが関係しているなら話は別だ。何としても迷宮は突破する。ショウコは死んじゃダメだ。僕のために死んだなんて事はあっちゃいけない。そのためなら、僕はこれが最善の策だって言い切れる」
「そういえば、幼馴染みでしたね……恋人、だったんですか?」
「は? エグイ冗談止めてもらえます?」
「へ?」
しんみりと呟いたクリケットさんは、心底嫌そうにひきつった僕の表情を見て顎を落としそうになった。
「たとえクリケットさんでも言っていい事と悪い事があります。僕の心は大いに傷ついた。謝罪を要求したい」
「えーと、ショウコさんの死を無かった事にしたいんですよね?」
「当然です。当たり前。そのためなら、僕は一万年と二千年かけても構わない」
「……ショウコさんが好きだからという理由では?」
「それ以上僕の魂を傷つけることを言うのなら、ここでイクイップ・スワイプって叫びますよ?」
「二人の関係がまるで分かりません……」
クリケットさんが頭を抱えて呟く。
「僕とショウコは小さい頃から一緒でした。保育園からずっと。ショウコが一つ年上で。いつも姉さん風吹かせまくってて」
言いながら、僕は右手を握りしめる。
「家族なんです。もう。理屈じゃない。助けるのに理由はいらない。だから、僕は迷宮に潜るんです」
そう。家族だから。だから、ショウコであっても助ける。例え、毎朝エルボードロップで「朝だー幼馴染みのお目覚めイベント最高でしょ」と言いながら起こしてきたり、「遅刻した! ほら、二人乗りして私を連れてって!」とアッシーさせられたり、「トオル! 私の宿題手伝って! 分からない? なら分かる様に予習しといて!」などと無茶振りしてきたり、「寒い! エアコン壊れたからトオルで温まった布団貸して!」と深夜に突撃してきてベッドを奪われたり。あれ? なんかだんだん助ける意欲無くなってきたかも?
「クリケットさん、やっぱり止めるという手もありますか?」
「一体なにがどうなってるんですか、君の選択は」
とりあえず、最終的には迷宮に潜るという事に決めた。ショウコには、死から戻った記憶の亡くなった僕が今までのあれやこれやの文句を言いまくるだろうという事で。期待してる、未来の僕よ。
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