第13話

 現在いるのは三階層で、僕はマッピングしながら探索を続けていた。


 戦闘終了後、「【聖域】使えねー」と嘆いていたらシリエルさんが「サイズは自由に変更できませんでしたか?」と呼んでもいないのに助言してくれた。


 あ、確かにそうでしたね。


 しかし、詳しく検証し直したところ……なんとも微妙な結果となってしまった。


 今の所、レベルのせいか右手を中心としてしか領域展開できないため、剣が敵に届くように調整すると僕自身を包むことができないのだ。右手を動かすと、下半身がわりとはみ出てしまう。

 これではシールドの意味を果たさない。

 しかも、小さいサイズ、例えば野球のボールやサッカーボールくらいの大きさなどはサイズ調整しやすいが、最大サイズの3メートルから2メートルに縮めようとすると潜心か潜技が足りないのか数十センチの誤差が毎回出てしまう。おまけに大きくするのは一瞬で済むが、小さくするのは少し時間がかかってしまう。


 3メートルで敵を止めた後、中剣の間合いにまで光球を縮め、一気に接敵。というのができればよかったが、いまのところは不可能だね。


 というか飛び道具があれば、3メートルで足止めして、安全に撃破できるのになあ。


 次にとるのはやはり【火球】か【水槍】だな。


 そういうわけで、【聖域】は現時点では使いどころの難しい【技能スキル】となっていた。


「恐らくレベルが上がれば、化けるのは間違いないんだよなあ……」


『【技能スキル】のレベルアップには様々な条件があります。心技体があがるのが、一番可能性がありますが、【潜る者】ダイバーの記録によると、必ずしもそうではないようです』


「へー、そうなんだ。ああ、【技能スキル】を使用すればするほど熟練していく?」


『そうですね、そうやって上がるのは珍しくありません。ごくまれに手に入れた遺物レリックの効果で上がったこともあるのだとか』


「うわあ、それはいいな。レベルアップアイテムとか、超貴重そう」


遺物レリック自体がそう出てくるわけでもありませんから、もし手に入れたなら相当に幸運でしょう』


「ステータスに運があったら、絶対に極振りしてたのにな」


『トオルは幸運を過信して、身を亡ぼすタイプですね』


「シリエルさん、支援する【潜る者】ダイバーの心のケアも大切ですよ?」


『私の【潜る者】ダイバーは、生死に関わる重要な講習を寝て過ごすほど豪胆ですから大丈夫です』


 はははは、うちの支援精霊さんは冗談がうますぎて、探索に身が入らないなあ。泣きそう。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「お、ここらあたりかな?」


『そうですね、トオルが聞いていた様子と合致します』


 実は、三階の地図は把握していた部分もあった。クリケットさんがとんでも講習の中で、三階の地図を資料として使っていたのだ。


「なんだっけ、迷宮は沈殿する澱みのせいで常に不安定な為、不規則なタイミングで通路や部屋などの場所が変わっていく。そのため、恒久に使える地図は存在しない。しかし、例外的にあまり変化しない場所もある、だったかな」


『その通りです。珍しい』


「ストレートに表現されると、ダメージでかいな……」


 立ち止まって、目の前の光景を眺める。


 通路の先には、少しばかり広い空間があった。心なしか、他と比べて明るいような気がする。中心には、小さい池というか石で囲まれた水たまりがある。

 影獣エイジュウの気配はない。


 クリケットさんの話の通りだ。


『では、休憩するとしましょうか。ここは迷宮の中にまれに存在する場所。澱みの中ですら残った魂の良心の力。ここには影獣エイジュウも近づきません。階段以外で、安心して過ごせる唯一の場所です』


 いわゆる、セーフティゾーンというらしい。

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