第9話

 二階層に降りた。


 今の所、周りの様子は一階層とさほど変わりない。古びた石壁と石畳。出てくる影獣エイジュウも同じだ。


 姿形に多少の違いはあれども、その強さは先ほどから変わっていない。今の僕でも善戦する事ができている。


「イクイップ・スワイプ!」


 今も正面に現れた影獣エイジュウに立ち向かうため、ダイバーズウォッチに二本指を走らせた。


 いつもの中剣を、僕の右手が掴む。


 イクイップ・スワイプという操作は、登録されている武器や防具を装備することができる。いまのところ使う事ができるのは、中剣と小型円盾の二つ。同時に扱うことはできない。「潜技」や「潜体」の数値が足りないのが理由らしい。つまり、成長していけば、鎧を装備しながら剣や盾も使えるのだと言う。格好いい。ますます特撮主人公に近づきそうだ。『変身!』と叫んで、鎧を装備したい。燃える。


「潜技を高めれば、ジェスチャー操作もできるって話だし!」


 特定の変身ポーズで装備するのもいいな。いかん、14歳の魂が溢れそう。


「それはともかく、今は目の前の影獣エイジュウだ!」


 猿のような影獣エイジュウが、飛び跳ねるように近づいてくる。口を開けて迫ってくる。その凶暴な牙が、僕をかみ砕こうとしてくる。


「ふっ!」


 身をかがめてスライディングで、影獣エイジュウを避ける。ガチリと頭上で牙が合わさる音がする。髪の毛が何本か持って行かれた気がする。


 左足の踵で石畳を蹴り、その反動を利用してオーバーヘッドキックのように右足で影獣エイジュウを蹴る。


 つもりだったが、こいつ僕の右足を利用して上に飛びやがった。


 蹴りの体制から、無理やり体をひねり、落ちてきた影獣エイジュウを躱すために中剣を放り投げ、両手を石畳について床を転げまわる。


 転がる僕のすぐそばを影獣エイジュウの拳が何回も突き刺さる。スワイプする暇もない。というか、転がり過ぎて目が回りそうだ。


 転がりながら、なかばヤケクソに出した右足に運よく影獣エイジュウがぶち当たった。壁に飛ばされた影獣エイジュウが一瞬動きを止める。


「チャンス! イクイップ・スワイプ!」


 放置したままの中剣を拾いに行くことはしない。影獣エイジュウに向かって走りながら、ダイバーズウォッチから手の甲に向かって二本指を走らせる。その勢いのまま、身体を右回転させて。


 が、影獣エイジュウの首を切り裂いた。身体よりも先に、ボッと首が青白い陽炎となって消えていく。


「ふう、危なかった……」


 思った通りだ。中剣や小型円盾は僕の意志で消すことができる。だから、さっきみたいな場合は、例え遠くに落としたとしても瞬時に再装備することができるのだ。


「ふむふむ、これは有り難い仕様だな……」


 中剣を消して、服についた埃を払う。転げまわったから、かなり汚れてしまった。


 さてさて、マッピングの続きといこうかな……。って、おや。


「潜技が上がってる」


 インフォメーションの左側に表示している文字列が「潜技:2」に変化していた。



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