第3話

 階段を下りた僕は、迷宮に辿り着いた。


「迷宮深度確認してみるか」


 早速、ダイバーズウォッチに情報を表示させてみる。目の前に文字が現れた。


 迷宮深度:1

 潜心:1

 潜技:1

 潜体:1


 おお、確かに数値が変わっている。ふと気になって、階段まで戻ってみた。階段の途中で、再度表示させる。


「迷宮深度は……あれ、表示されてない」


 迷宮深度:

 潜心:1

 潜技:1

 潜体:1


 おや、早速壊れた? ぶんぶん左手首を振ってみるが、結果は同じだ。


「ヘイ、シリエルさん、初期不良です。交換を希望します」


 ダイバーズウォッチの支援精霊シリエルに呼びかけると、頭の中に声が響いてきた。


『不良ではありません。階層間の階段等の移動手段は、階層と見做みなされません。そのため、階層深度は表示されない事となっています』


「へーそうなんだ」


『ところでトオル、ひとつ忘れていないでしょうか』


「忘れ物? 何か置いてきたっけ?」


 身の回りをキョロキョロ見渡すが、何も思いつかない。


『物ではありません。先ほど説明したはずですが、迷宮に潜るときはダイバーズウォッチに迷宮探索時間を記録するように操作してください。過度な探索は、例え【潜る者】ダイバーと言えども疲労が蓄積していきます。推奨された時間内で探索を行うために、時間の管理は必要です』


「そう言えば、そんな事も話してたね」


『……私の【潜る者】ダイバーは、支援しがいがありそうです』


 これは誉め言葉と受け取ってしまっては駄目なやつだ。気のせいかため息つかれた気配すらしてくる。

 慌てて、時間を管理するため、タイムプリセットを行う。


「ええと、インフォ―メンション・スワイプして、次に時計の……あれ時計表示の設定どこなんだこれ。ええと、わかんないな。そうだ。シリエルさん、時計表示して」


『……設定しました』


「おお、サンクス。んで、確かこの時計表示をタップして、タイムプリセットの文字をさらにタップ……良し」


 視界の隅、邪魔にならない程度のところに二十四時間表記のデジタル時計と、探索残り時間を表すカウントダウンが表示される。今の所、約八時間が探索の推奨時間らしい。


 狭間の世界も一日二十四時間なのか、それとも僕に合わせての時間表記なのか。いやいや、そもそもの話、ここって『日』という概念はあるのだろうか?


「は。時間の管理って、シリエルさんにお願いすれば良かったのでは?」


『お断りいたします。時間の管理もろくにできないようでは、【潜る者】ダイバー失格と言えます』


「支援精霊とは」


『私は、貴方のお母さんではありません』


 可憐な声でそう言われると、なんか妙に照れてしまう。いかん、油断すると支援精霊に何もかも依存してしまいそうだ、気をつけねば。


 再び、階段を下りて、一階に戻る。

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