第15話 休息

タケミはアリーシャと食事を取りながら、救護任務で出くわしたBランクレイドのズメイと、クズニカでの出来事について話していた。


「大変な一日でしたね。」

アリーシャが言う。救護班として数日過ごして、問題なく帰って来るだけのクエストのつもりだったのが、まさかの大型の蛇竜に出くわす事になったのだから、当然だろう。冒険者にも7人の犠牲者が出てしまった。

「そうだな。まったく歯が立たなかったし、もっと強くならないとな。」

タケミは心底思った。Bランク冒険者にも、力だけなら引けを取らない数値とさえ思っていたのだ。それが、あそこまで差があるなんて。


「明日から、どうしましょう?」

アリーシャはもともとシノス付近の生まれで、この街を中心に冒険者として活動し、回復魔法で人助けをしたいと言っていた。

タケミの目的はタケミナカタの信仰を集める事だが、それにはもっと強くなり、知名度を上げる必要がある。いずれはこの街を離れて、もっと大きな都市へ行くことになる。

「そうだな。まだLvも4のままだし。ここらで魔物を討伐して、Lvをあげたいとこだけど、この辺の魔物では時間がかかる。もう少し大きい街や都市は無いのかい?」

地理については全然わからない。アリーシャはどうだろうか。


「ヒャウィストク出身で、あまり外へ出た事はありませんが、、、すぐ西がオルシュティン地方。南西にはワルシャワがあります。けっこう離れていますが、ホーラント内では最大規模の都市です。」

「規模って、どのくらいなんだ?」


「ワルシャワだけで10万人ほどの人が居ます。周辺にはいくつもの街が点在していて、治安も良く美しい街ですよ」

「え?治安がいいのか?」


「はい。強い冒険者の多い都市ですから、魔物はすぐ討伐されてしまいますし。盗賊なんかもほとんどいません。周辺には円で囲うように6つの街があります。」

「そうか。治安が良いとこへ行っても意味が無いか。他には?」


「ヘラルーシとの旧境界沿いに南下していけばビャワポドラスカ郡です。フロドナのようなヘラルーシの旧都ブレストから近く、難民の流入が激しく、今は治安が荒れています。さらに南下してルブリンまで行くと、ウクライナの森へと続く街道を管理する街、ヘウムやザモシチがあります。」

「ウクライナの森か・・・いつか行ってみたいが、、、」


「逆に北へ行くとアウグストゥフやスバルキ郡。そのまま北上すればリトアニアです。」

「リトアニア・・・って。エストニアともう一つ国があって、バルト三国とかって学校で習った気がするな。バルト海に面した海洋国家だ。」


「御存知なのですか???リトアニア、ラトヒア、リトアニアです。海は大変危険で、この三国は魔王の軍勢や帝国軍とは関係なく、海からの襲撃にさらされて、常に危険な場所なのです」

「え?魔王軍と帝国軍以外にも、脅威があるのか?」


「はい、海路が危険だというお話は以前したと思いますが、サハギン族が原因なのです。」

サハギン、、、半魚人みたいなやつか


「海のどこから、いつサハギン族が襲撃をしてくるか分からない。なので、海に面した国々は常に軍を配備する必要があるのです。海洋資源もほとんど取れず、サハギン族の出る地域は、常に死と貧困、血と混迷が人々を襲いつづけるのです。」

「海洋資源が取れない・・・・それは大変だ」


海に面した国々は、魚などの漁が出来るのが強みになるはずだが、この世界では海は資源ではなく恐怖の対象なのだ。


「ホーラントも、海に面した北部の都市は常に軍が配備されて緊張状態です。それがグダニスクですね」


そうなると、イギリスや日本のような島国は大変な目にあっているのではないか


「ハイヌフカへ行ってみませんか?」

不意にアリーシャが提案をしてきた。

「ハイヌフカ?」


「はい、ビャウォヴィエジャという巨大な森があるのですが、その手前にある街です。ウクライナの森ほどではありませんが、探索もほとんど進んでいない森で、探索のための前線都市ハイヌフカとナレフカは、探索好きな冒険者に人気なんです。」

「へえ、、、それは面白そうだ。でも、危険じゃないのか?」


「もちろん危険かもしれないですが、、この辺りの魔物ではタケミさんの敵ではありませんし。腕を磨くなら。良いかもしれません。」

「そうか、、ビャウォ、、、、巨大な森か。行ってみるか。そこへ!」


鳥族の戦士、ビアティ・オーゼルに触発されたのか、タケミは強くなりたくてウズウズしていたのだった。

「じゃあ、明日はその準備で買い物をしよう。ズメイの討伐で予想外の収入だったし」

「そうですね。たった一日で、私も銀貨55枚。治療班としての任務と固定報酬で二日間で30銀貨。到着時に頂いた3銀貨も併せると、二日間で88銀貨。予定の数倍でしたから。」

「そうだな。僕もズメイの討伐報酬と貢献度報酬でけっこうな額になったし」


そうだ、討伐報酬の55銀貨と牙の売却でもらった200銀貨。ズメイの討伐だけで255銀貨も得たのだ。

「銀貨1枚で肉バーガー2個。シノスなら一泊3銀貨・・・」

銀貨一枚の価値はおよそ1000円から1500円くらいだろうか。

宿泊費よりも食費が割高な感じがするが、そんなものか。

ということは、ズメイの討伐報酬だけで二日間で30万円近く稼いだのだ。

討伐報酬1000銀貨と、牙の売却で1000銀貨。合わせて2000と言う事は、

あれを一人で倒せるようになれば、それだけで200万円近くになるわけだ。


「Bランク以上の冒険者くらいになれば、とんでもない稼ぎだな・・・」

タケミの独り言ハアリーシャには聞こえていなかった。


シノスからビャウォヴィエジャの大森林までは80kmほどだ。

買い物をして、テントの魔道具等も買いそろえておこう。

それに、パンチやキック、体当たりで倒せない敵を想定し、武器も買わなければ。

予算は銀貨300枚。充分だ、明日の買い物を楽しみにしておこう。














































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