第11話 フロドナ街道の蛇竜ズメイ

フロドナへと続く街道に出ると、確かに亡命者と思われる住民がとぼとぼと歩いている。

1km進めば1人か2人は見かける。

辺りは視界も良く、ゴブリンの気配はないが、妙な緊張感がある。


「・・・・何かいるな。」

タケミは耳栓を外し、マナを拡散して探知を開始した。


マナを拡散して魔力の反応を探る探知法は、【エコーロケーション】と言って、コウモリなど、視力の弱い動物がよく使う方法だと聞いて、使ってみたのだが、単純に音と気配だけを探るよりも鮮明に周囲の状況を把握できた。

「でも、この方法だと頑張っても100mってとこだな」

マナの拡散も、その反響を探る能力もまだ低すぎて、本来なら10m程度。

能力10倍でも100mがせいぜいという感じだ。


今度は目を閉じ、聴力などの感覚を頼りに、動物や魔物の気配を探す。


・・・・・住民数名の歩く足音。・・・・虫の羽音・・・木々のざわめき・・・

何か大きなものが這う音・・・カサカサと草を踏みながらゆっくり進む音・・・


なんだ?随分大きな這いずりの音が・・


・・・近づいてくる。


突然その音が、さらに大きく、早くなった。

次の瞬間、さっきすれ違った住民が姿を消した。

そして大きな物が立ち登り、周囲に影を作った。

「シャアアアアアアアアアアアアアァァァァァッァ」


ふと見ると巨大な蛇が、さっき歩いていた住民を丸呑みにしている。


「なんだこれっ!?」


タケミは驚いた。と同時に耳栓を付けた。こんな大蛇の奇声を聞いたら耳が壊れてしまう。

距離を取り、観察する。

・・・15、、、16mくらいか?6階建てのビルくらいの高さだ。

こんなデカイ蛇が居るのか。


ひとりで戦って勝てるわけがなかった。

「どうしよう、、、戦えるような敵なのかこれ」


と、次の瞬間一直線に矢が放たれ、ズメイの胴をかすめた。


「そこの冒険者っ!退がれっ」

矢が飛んできた方を見ると、虫族の男とヒト族の男2人が武器を構えている。

「援護かっ、助かる!」

タケミはそう叫ぶと全力でデカイ蛇に向かって突進した。

ヒト族の冒険者が叫んだ言葉は耳栓で聞こえていなかった。


タケミは全力で突進し、ズメイの胴体に飛び蹴りを浴びせた。


ッドスンッ!!。。。。。


キョダイなタイヤを蹴飛ばしたような感触に弾かれて、タケミは着地した。

「全然効いてない。ダメだ、これ無理だ」

小さくこぼし、後ろへと飛び退いて距離を取った。


「おいっ」

左肩を掴まれ、後ろから呼びかけられた。

「退がれと言っただろう冒険者!」

「えっ??」

タケミは振り返りながら耳栓を外す


「なんだそりゃ、聞こえてなかったってのか!?」

耳栓を外して怪訝な顔をしているタケミを見て男が叫んだ


「すまない。耳が良すぎてコレしてないと聞こえ過ぎるんだ。」

タケミがそういうと、虫族の男がぼそぼそと話し出した

「あれはズメイだ。数年ごと、突如現れて人を喰う。Bランク冒険者数人がかりで倒す下級レイド対象だ。ワシらでは話にならん。退がるのだ」


そう言われて改めてデカイ蛇の方を見る。

6階建てのビルくらいのサイズの巨大蛇が、高い位置から獲物をジッと見つめている。

確かに勝てる気がしない。


一同は全力で後方に退がり、背を向けて一気に走り出した。

数百メートル移動したあとチラリと蛇の方を向いたら、蛇竜はそのままの位置でジッと動かないでいた。

「あれは、、なんなんだ?」

走りながらさっきの虫族の男に尋ねる

「さっきも言っただろう。ズメイと呼ばれる化け物だ。魔族ではない。討伐すれば肉も革も牙も高値で売れるし、討伐報酬も破格だが、討伐難易度はBランク以上に指定されている。ワシらはEランクの冒険者だ。束になってもダメージは与えられ。死ぬだけだ」

この男はさっき下級レイドとか言っていた。

レイドといえば、複数の冒険者パーティが一斉に戦って倒す大型ボスの事だ。

「・・・あれでBランクなのか。」

タケミは呟いた。


かなり距離を取った場所で、茂みに潜み。さっきの男たちから話を聴く事にした。

「ワシはシュー・ガ。見ての通り虫族だ。役目は主にサーチャー。探知、探索、偵察を担当しておる」

でっかいヒト型の蟻。と言ってしまえば身もふたも無いが、そんな感じの風貌だ。

魔物と間違えて討伐されそう、、、というのが虫族に対するタケミの第一印象だった。

「・・・虫族が珍しいか?町のギルドにはたいがいは居るもんだが」

そう言われて慌てて両手を前に出して横に振る。もの珍しいのは確かだが、この世界に来たばかりだからであって、虫族そのものが珍しいわけではない。街中をあるけば、日本でアメリカ人とすれ違うくらいの割合で見かけていた。


「俺はマレンシー・ガス。ヒト族のファイターで、この斧で敵をぶったおすファイターだ」

ドワーフかと思えばヒト族だった。そんな感じの大男だ。

「俺はミー・ハイ・トラストス。ヒト族のスカウトで、解錠スキル、無音歩法などを使える」

盗賊(シーフ)というジョブは犯罪者になるのでそう呼ばないが、上位スキルを持つスカウトはゲームで言うところのシーフや忍者のような役割になりそうだ。

3人ともEランクのタグを付けている


「僕はタケミ。ヒト族の冒険者でFランクだ」


「Fランクだって!?あの動きでか?速度重視の拳闘士なのか?にしても凄い速さだった。エンチャントか?」

マレンシーが言う

「ああ、エンチャントではなくてアビリティだ。でも全然通じない。武器を持って無いし、あれではダメージすら与えられない」


この4人の総火力をもってしても、ダメージすら通らないのでは話にならない。

いそいで駐屯地に戻り、レイドボス発生を報告する事になった。


「団長殿っ!、報告がある。団長殿はいるか!」

詰所に戻るなりシュー・ガは責任者を呼んだ

「はいはいはいよ、どうしたどうした・・」

さっきの詰所のテントの奥の方にいた男が近づいてきた。


「ここの責任者。団長のゼ・ガンだ。いったいなにかね、そんなに慌てて」

またもや背の大きな人狼族の男が出て来た。タケミからすればさっきの人狼族の男性と見分けがつかないが、背の大きさや、毛の色が少し違う、、、気がする。


「Eランク冒険者のシュー・ガ他3名が、Bランクレイド【ズメイ】の発見を報告する。ギルドへレイドの申請を頼む。ダメージが通らん。Bランク以上の冒険者を呼んでくれ!ここに向かう可能性もあるっ!」


シュー・ガの報告を受けると、途端に団長の顔色が変わった。

「ズメイか、、、久しぶりだな。よし、すぐに討伐依頼を出そう。関所にも伝えてくれ。無理はするなと。こちらはここいら一体の結界に動物除けのエンチャント指令を出す」


詰所に居た人狼族の職員たちが慌ただしく動き出した。この職員たちも、戦えばEランク冒険者くらいの強さにはなるのだろうか・・・。

そう思いながら、足の速さを活かして関所への伝達役をタケミは引き受けた。


アリーシャ、、、大丈夫かな。

とりあえず関所へ伝達をしたら、さっきの蛇のところへ戻って監視をしよう


アリーシャを安全なところで働けるようにと思って選んだクエストで、レイドが発生するなんて。

タケミは自分の判断を呪った。


時間は17時、、、このまま暗くなれば危険が増える。

今日はまだゴブリンの一匹すら討伐していない。今日の収入は到着時に受け取った銀貨3枚と、固定報酬の銀貨8枚だけという事になる。

「稼がないと何も買えないし、どこへも行けないってのに、、、、」

タケミは独り言を言っていた。


Bランク冒険者が討伐に来る前にズメイが村を襲ったら・・・


「またヒトが死ぬかもしれない」


ディックの死にざまが脳裏に浮かんだ。

しかし自分の力ではダメージを与える事すら出来ない。


武神の加護とチートアビリティがあるはずなのに、、、、

世界はそんなに甘くない。そう言われているような気がした。





































































































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