第10話 救護任務


朝。ギルドが扉の扉が開くと、パチンコ屋の開店待ちの如く並んでいた冒険者数名が、急ぎ足で中へ入っていった。

ギルド内広間の左方にはBランク以上の掲示板。中央にはC、Dランク向けの掲示板。そして右方にはEランク以下向けの掲示板がある。


アリーシャと共に右方掲示板の前に立ち、タケミもクエストを眺めた。

視力も10倍になり、遠くからでもよく見える。周囲は他の冒険者の声でガヤガヤとうるさいが、タケミは上機嫌だった。


「タケミさん、これどうぞ。」

朝、アリーシャが渡してくれたのは耳栓だった。

おかげで周囲の声もちょうど良い音量で、気にならない。


なるほど、こんなシンプルな対応策があるとは・・・


タケミの能力の中で、一番の難題がひとつ解決したのだ。

他にも臭いを嗅ぐ嗅覚も10倍。これもけっこうな難題だが、聴覚ほどではない。

視覚も、視力が10倍なので、空を見上げて太陽を直視した時は、ほんとうに視力を失うかと思った。


「タケミさん、あれ。救護任務。どうでしょう?」

アリーシャが指刺したのは、左端にあるクエストだった。


◆救護任務◆

シノス東方、ヘラルーシからの亡命者の救護任務

依頼者:商会・ギルド連盟

クズニカへ 冒険者数名求む。


フロドナから亡命者多数。魔物の出現により怪我人増加。

治療、防衛、救助、炊き出し、舗装、荷運びetc

任務内容により報酬は都度変化。 

到着時に銀貨3枚。1日最低銀貨8枚。功績により追加報酬あり



・・・なるほど。1日最低銀貨8枚なら、初心者にとっては悪くない。

ひとりなら飛び回って魔物の討伐で一日50銀貨稼ぐ事も出来るが、アリーシャを連れていくなら、安定したクエストが良い。救護任務なら活躍も出来るだろう。


「よし、あれを受けよう」

直ぐに受付へ受領申請をし、シノスを出発した。


クズニカはシノスから60kmほど。ヘラルーシとの境界に近い場所だ。ヘラルーシのフロドナは、【最後の町】と呼ばれ、統治者不在のヘラルーシの中で数少ない町だ。

周囲を敵国に囲まれ、領土を広げ過ぎた帝国がこれ以上西に攻めて来る事は無いだろうと、逃げなかった住民が残っているのだが、徐々に増える魔物や落ちぶれて盗賊になり果てた冒険者に脅かされており、亡命者が徐々に増えているのだ。

ホーラントとヘラルーシの旧国境には関所があり、亡命者を積極的に救助しているが、ヘラルーシ旧領内までは立ち入らない。

そのため、フロドナからクズニカへ辿り着けない難民も多くいる。

これを救助するというのは冒険者に一任されるが、危険度の割に対価は微妙で、人気のクエストとは言えない。しかしアリーシャを救護班として置いておけば、タケミは自由に動ける。好都合だった。


タケミは昨日、魔道具をいくつか購入していた。

●マナを消費して周囲を照らす「トーチ」

●歩くより早い浮かぶ板「ボード」


テントや寝袋は不要だった。いざとなれば全力で走れば十数分で街へ移動できる。

アリーシャが居なければ、だが。なのでアリーシャの移動用にボードを用意したのだ。


「アリーシャ、このボードに乗ってくれ」

タケミに勧められるがままに、アリーシャはボードに乗る。

スケボーのように乗るのが一般的だが、スピードを出すと危険なので座らせた。


重力魔法「減重魔法!ウェイトハーフっ!」(対象の体重を半分にする)


これで、歩くよりは早い程度の子供のおもちゃと言われる魔道具「ボード」でも、

時速12kmほどの速度になる。お姫様だっこで抱えて走られるのを嫌がるアリーシャの移動速度を速めるための策だ。


・・少し早めの自転車くらいか・・・?

(そういえば、この世界には自転車が無い。馬車やボードなどの魔道具があるのに、自転車は無い。マナを消費する事に慣れていて、自分で漕ぐという発想が無いのだろうか。いずれ自転車の魔道具なんかも自分で作ってみよう)


移動を開始すると、思った以上に快適だった。

そこそこ速度があるので、虫などが寄ってくる事もない。

森を抜けてしまえば境界までは平原中心なので、危険も少ない。

そうすれば索敵も不要なので、風魔法でボードに推進力を与え、速度を速める事も可能だ。おそらく3時間もかからないだろう。


【クズニカ】

街というよりは、村とか駐屯地という方が合っているだろう。教会やギルドのような建物は無く、多くが簡易の小屋であったり、木製の平屋根の家屋だ。クズニカの村を囲う木の柵は150cm程度で、ゴブリン除けにはなると言った具合だ。

柵の外には放置された家屋や壊れた小屋の残骸も多く、度々襲撃を受けているのが見て取れる。

「思った以上に廃れていますね・・」

アリーシャは不安そうな顔をしている。

「守衛が居なければ廃村と間違えそうだよな・・・」

タケミも若干不安になった。ほんとうにここが目的地なのか?


入り口から300mほど進むと、次第に大型テントが並ぶ中心地が見えた。

露店がいくつも並び、宿屋もテントだ。

「うわぁ。。。ここで宿泊は微妙だな」

シノスの宿屋は銀貨3枚で、しっかりとした個室とベッドがある。

ここでテントで寝るのなら、野宿と大差ないように見えた。


「タケミさん、あそこにホーラントのギルドのマークのついたテントがあります。」

アリーシャが指を指した大きなテントには、ホーラントのギルドの紋章である剣を咥えた白鷲のマークがあった。

注意深く見ていると、テントもそれぞれに魔力が付与されており、気配隠蔽、静音、

迷彩、耐熱などが施されているマークがある。モンスターが来ても、低レベルのモンスターなら素通りするだろう。

「なるほど、だから木の柵程度でも大丈夫なのか、、、」


「どうしたんです?」

アリーシャが不思議そうに尋ねる

「いや、大きな街以外は、どうやって防衛をしてるのか不思議だったんだが。。。

テントなどの魔道具に気配遮断とか静音の魔法が付与されているんだから、そりゃあ建物や敷地にも何かしら魔物対策はしてあるんだなって、思ってさ。」


魔道具は決して高級品ではない。20人程度の集落でも、木の柵やテントに付与が施されていれば、そうそう襲われる事は無さそうだ。しかし、それでも貧しい村などはそれも出来ず、蹂躙されるのだ。


「失礼する。シノスのギルドから派遣された冒険者だ」

テントに入り声を掛けると、手前に居た男性が振り向いた。

「ああ、ようやく来てくれたか。ありがとう。助かるよ。」

随分と大柄な人狼族の男だった。

「Fランク冒険者のタケミと、同じくFランク冒険者のアリーシャだ。彼女はヒーラーだ」

タケミは手短に自己紹介を済ませた。


「ありがとう。受付で給付金を受け取ったら、指示に従って業務についてくれ。特にヒーラーのアナタは大忙しだぞ。頼むよ」

給付の銀貨3枚を受領し、指示を受け、アリーシャとは別々に案内されたテントへ移動した。


アリーシャは予想通り、怪我人の救護テントへ行った。

1日銀貨8枚の報酬に加え、ヒーラーは7枚の固定追加報酬だそうだ。

タケミの方は、関所の向こう、フロドナ手前の街道付近にいる魔物、盗賊の討伐で歩合制だ。


時間は午後3時前。日暮れまでにどの程度稼げるだろうか。

タケミはダッシュで関所を抜け、フロドナまでの街道へ向かった。


フロドナ街道任務ー初日ー

銀貨92枚ー8枚(ボード)ー2枚(トーチ)=82枚

到着時報酬銀貨3枚=85枚

























































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