第3話 ギルドで座学
翌日と翌々日の2日間、ギルドで世界の事について勉強させてもらうことになり、その対価として力仕事などを手伝う事になった。
Lv2とはいえ、10倍の能力になっていれば、D級冒険者並みの能力値なのだそうだ。
「おはようございます、タケミさん。教官としてお話をさせて頂くギルド長補佐官
シムスです。早速ですが貴方の元居た世界とこの世界の違い、この世界のことなどについてお話していきましょう。ところで、ご記憶を失ったと聞きましたが、何も思い出せないですか?」
部屋にはいるなり補佐官のシムスは質問を始めた
「実は、だいたい思出せたんですが、、、自分の名前とか、なぜこっちの世界に来ることになったのかなど、そういう部分はモヤがかかったように思い出せなくて」
元の世界では高校一年生だったこと。日本の中部地方に住んでいたこと。両親と弟が居たこと。などは思い出したのだ。しかし、名前や、こっちへ来る原因となった出来事は思い出せなかった。
「そうですか。まあ、それは時間をかけて思い出せば良いでしょう。まずはこちらの世界に馴染むことですね。いずれ元の世界に戻れるのか、わかりませんから」
シムスはそう言うと、正面のボードに何かを書き出した。真っ黒なボードに、指先が光ながら文字を書き込んでいく。文字は見たことないものだが、何故か意味が理解できる。そういえば、言葉も全然知らない言語のはずなのに、すべて解かるのだ。これも神の加護だろうか。。。ステータスウィンドウには【武神の加護】とだけ記載されている。
シムスの講義で、この世界のおおまかな内容を理解することができた。
【異世界からの来訪者】
異世界からの来訪は、歴史の文献では数千年前からあったようだ。最も多いのが武美と同じくチキュウセカイからの来訪者で、全体の9割を超える。それ以外には、キカイと言われる心を持たない種族と、角の生えた巨人の種族と、おおまかには3種類の異世界から来訪するらしい。
訪れた目的が不明なものをドリフター(漂流者、放浪者)
こちらの世界の誰かに呼ばれ召喚されたものをゲスト(招待者)
自分の意思でこちらに訪れたものをクライアント(来訪者)やビジター(訪問者)
こちらの世界と異世界を行き来し、役割を持つものをゲートキーパー(門番)
と呼んでいるそうだ。地方や国によって言い方は異なるし区分も差異があるようだが、大陸西部ではだいたいこんな感じらしい
【加護持ちのスキル】
異世界からの来訪者は、概ね加護を持っており、言語や文字の習得が不要で、全種族全地方の言葉を理解する。書く事は出来ないが読む事はできるそうだ。
加護、恩恵、祝福、恩寵、福音、契約、寵愛、化身と、精霊や神々との関係値によって受ける効果は様々だが、個人が発揮できるスキルやアビリティの枠を超える大きな効果が得られる。もちろん、こちらの世界の住人も、神々の加護や精霊との契約を受けている者はたくさんいるそうだ。Aランク以上の冒険者であれば、かなりの割合で
これらの能力を持っているのだとか
【世界と大陸】
大陸はユーラシアと呼ばれており、世界そのものには名前は無い。海を隔てた向こうに別の大陸や島々があるそうだが、海路は危険で、大陸間の交易は無い。
ユーラシアは、中央に覇権を狙う国家である「リュウ帝国」が大きな領土を持っており、帝国から見て北部、東部、南部、西部の4つに分かれている。帝国領は通過する事は出来ないため、領土を経由しなくても行き来できる西部と南部のみが交易があり、北部は完全に孤立。東部に至っては、ほとんど情報すらないのだそうだ。
東西南北のエリアにはそれぞれ魔王が進軍しており、魔王率いる魔族との戦いが各地で起きており、疲弊した所を背後から帝国に進軍され、いくつもの国が占領されたのだそうだ。大陸西部と呼ばれるこの地域にも「西の魔王とその配下」がおり、大小20を超える国や貴族の自治領が力を合わせて魔王軍との境界を維持している。
帝国領から無統括区域を隔てているので、西への進軍はここ数十年無いらしいが、北部と東部はどうなっているか不明だそうだ。
【強くなる方法】
通常この世界では心臓で生命活動をするものを人族や虫族、ドワーフ族などと特徴ごとに種族として分類している。一方、魔力を帯びた核で生命活動しているものを魔族と呼称する。心臓で動いている一般の動物や人間を倒しても経験値は得られないが、
魔族を倒すと核から漏れ出るマナを吸収し経験値を得られる。核を破壊して魔族を倒すと、魔族は死ぬが経験値は得られない。手に入れた核は店やギルドで売却すればお金になる。
Lvアップは能力が向上し、また手に入れたポイントを自分で割り振って、成長させるステータスやスキルを任意で決められる。
経験値やLvアップとは別に「筋トレ」や「勉強」によって力や体力、知力を上昇させることも可能で、Lv1のまま筋トレを続けて、力と体力だけ凄い数値という事も可能らしい。
他に、熟練度によって魔法の威力やマナ操作、剣の腕前が向上することで強くなる方法もあるが、これも勉強や筋トレを合わせて行い、筋力などを向上させなければ、重たい剣を自由自在に振り回す事は出来ないので、熟練度というのは、訓練や実践経験の積み重ねなのだそうだ。国の兵士などは実戦で魔族と戦う機会は普段は無いので、
Lvは低いまま、訓練による力と体力の向上や武器の熟練度の向上で強くなるケースが多く、Lvの高い魔族にいきなり出くわすと、なにも出来ずに一掃される事もあるらしい。
バフ魔法やエンチャントで一時的に能力を向上させたり、「身体強化」の魔法で能力にブーストをかけるのは一般的らしい。
また、アイテム効果で一時的に能力を向上させたり、料理人や調理師を連れているパーティでは食事による能力アップ付与なんかもしているらしい。
個人行動をする冒険者は、アイテム付与や食事バフなどを、クエストに出かける前に必ず使うそうだ。
また、装備品には能力を向上させる効果があるので、よりよい装備品を求めて冒険者が競売や闘技場へ参加することも多い。
【ブレイズ】と呼ばれる模様を身体に刻む事で、永久的な能力向上を図る事が出来る。超一流のブレイズ掘り師は人気のある者だと予約で一年待ちなどもザラなのだそうだ。腕、脚、身体の表と背中、顔と、ブレイズを全身に彫り込んだ戦士などは、それだけで家を何軒も買えるほどの費用が掛かるそうだが、全身に彫り込んだブレイズの効果は、永久バフとして計り知れない価値があるのだとか。
(全身にファッションタトゥーを入れると、付与効果でステUPとか、ファンタジーだなと思うが、タトゥーと同じで消せないらしいので、安物のブレイズを入れて後悔する者も多いらしい)
【通貨】
この世界の通貨は
銅貨=100円くらい
銀貨=銅貨の10倍くらいの価値
金貨=銀貨の10倍くらいの価値
ミスリル硬貨=金貨の10倍くらいの価値
の貨幣価値で、西部と南部では統一で流通しているそうだ。
大昔からある「財団」が特殊な魔法技術で生成し、商会が流通させている。
他にも価値ある宝石や鉱石、核(コア)や聖石、魔石は商会がだいたいの価値を公表している
【魔法と魔導書】
魔法は学校で教える基礎魔法以外は、だいたい人それぞれオリジナルで、「火を放つ魔法」ひとつとっても、魔力やマナ量、イメージ力によって全然威力が違うらしい。
魔法の素養がある子供は、就学するまで魔力を封印し、暴走や暴発をしないようにする義務があり、子供の魔力暴走事故は親の責任となる。
手を前に差し出して「火を出す」とイメージするだけで火を出していたら、世界中で火災事故だらけになるのだそうで、魔法を発動するトリガーとなる魔法の名前を自分で決めて、それを唱えない限り発動しないように訓練をするのだとか。
高度な魔法を誰かが生み出してそれを人に教える場合、イメージを伝えるだけでは難しいため、マナ操作と発動する魔法のイメージをし、正しく発動できるようにするために「詠唱文」というものがあり、属性の素養さえあれば、魔導書は誰にでもその魔法を使えるようにできていしまうという恐ろしいもので、高度な魔法の魔導書は、高値で取引される。
幼少期に「おまじない」と称して親は魔法の暴発や暴走をしない基礎封印を施す。
異世界からの来訪者は、災害を引きおこすレベルの魔法を簡単に発動してしまうケースが多く、警戒されることもあるという。
【法律】
大陸西部と南部では大体共通なのだが、【ギルド・商会・財団・教会】の4つの勢力が冒険者や商人、聖職者などについての共通の法を制定している。
各国の自治領や国家単位でそれぞれ法律は異なるため、冒険者や商人は共通の法律の他に国ごとの法律も守らなければならない。
(例えば、15歳で成人し冒険者になって酒場でお酒を飲んでいたとして、これが成人年齢や飲酒可能年齢が国によって法が異なるため、ある国で若い冒険者がいつものようにお酒を飲んでいたら、未成年飲酒で捕まって罰金を支払う。なんてケースがよくあるのだそうだ。共通法よりも領土ごとの法律が優先される)
冒険者の救助義務とか、そういうのは共通法らしい。これはよく覚えておかないと、
うっかりすると法律違反てこともありうる
【言語】
異世界からの来訪者は、言語理解と文字の読解が加護として標準で備わっているケースが多いが、当然国ごとに言語も文字も異なるし、種族間でも異なる。
共通語というものがあって、地域が変わっても共通語が話せれば問題ないが、地方へ行けば言葉が通じなくて困るケースは普通にあるそうだ。
種族間での言語の差異は大きく、共通語が話せなければ冒険して世界中を回るなどというのはそもそも無理らしい。
言語理解(ポケトーク)という魔法を習得すれば、その問題は回避できるのだそうだ。
【地域と国】
現在地はホーラントという国にある地方都市の冒険者ギルドで、周辺にはトイツ、オランタ、ルクセンフルク、ヘルキーなどの国がある。それより西は魔王軍の領土で、トイツやオランタなどの国境は魔王の配下である6柱の魔神が治めている領土に隣接しており、各国は協力してこの脅威に対抗しているらしい。
帝国領は広大で、大陸南部の都市との交易路はウクライナの森を超えて迂回するしかないそうだ。ウクライナの森は巨大なエルフの森で、安易に立ち入ることは出来ないので、商人と冒険者で確立したたった一本の街道しかない。それを少しでもそれると森に迷いこんでしまうそうだ。
(つまり、地球世界のユーラシア大陸で言えば、ロシア西部から中国あたりが帝国領で、現在地はヨーロッパ付近ということだろうか。もしかしたら地理に関しては地球と似ているのかもしれない)
一日目の講義を終え、ギルドの外へ出るとすでに夕陽が傾き始めていた。
いくつかのちから仕事を手伝い、最後に配達の依頼を受けてギルドの建物を出た。
宿泊する場所まで用意してくれて、本当に親切だ。道を尋ねながら配達を済ませて、アリーシャと待ち合わせた店に入った。
ガチャ、、、、、、
ドアを開けるとアリーシャが一番隅の席に座っているのが見えた
「お待たせアリーシャ」
声を掛けるとアリーシャが笑顔で迎えてくれた
「こんばんは、タケミさん。」
修道服ではなく、私服の軽装に近い服装だった。
ひとりでクエストに出るのは危険なので、2日間の講義が終わるのを待ってくれるというのだ。他の冒険者とクエストに出ていきなり事件に巻き込まれてしまったため、
武美と行動した方がいいと判断したのだろう。
「今日と明日は私がおごります。助けてもらったお礼です」
彼女はそう言ってメニューを渡してきた。
「ありがとう。お言葉に甘えます」
この世界の通貨を持っていないので、食事をするお金すらないのだ。
明後日からしっかりクエストをこなしてお金を稼ごう
「タケミさんが一緒にクエストに出てくれるというので、本当に安心しているんです」
アリーシャはそう言って照れて顔を赤くしている
(これは、もう惚れてるんじゃないのか?)
なんとなくドキドキしてしまう
「実は、先日のように冒険者の中には救助義務を無視して他の冒険者や一般市民を奴隷にしようとする輩がいるのですが。それ以外にも、、、その、、、単純に一緒にクエストに出た冒険者一党の中で、襲われたりする被害もあったりするんです」
なんと、同じパーティとして冒険に出て、外で野宿した際にレイプされるという事か。とんでも無い話だ。
「私は聖職者ですし、、、処女ですので、そういうのが一番怖くて・・・。でもタケミさんは、、、能力の事もあるし、安心できると思ったんです」
(なるほど。能力発動条件が「童貞」である以上、一緒に居て貞操の危機は無いと。そういうことか)
安心してもらえるのは嬉しいが、少し複雑な気分だった。確かに貞操の危機は無いだろう。しかし、もう全く脈ナシですと言われているようなものだ。
せっかく美少女ヒーラーと二人パーティだというのに、なんのロマンスの可能性もありはしないのだ。
モテたいけどモテれない。モテても何も出来ない。
呪いのチート能力を捨て、この世界でロマンス出来る日は来るのだろうか・・・・・
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