第2話「冒険者ギルド」


Gカップヒーラーのアリーシャの一党の仲間の遺体から、冒険者タグや遺品を回収し、冒険者ギルドのある町「シノス」へ移動した。

街並みは中世風で、文明レベルはそこまで高くないように感じた。

車や自転車、バイクなどは一切見かけず、移動手段は徒歩・馬車(荷車を引くのは馬だけでなく、牛や大鳥、大トカゲなど様々のようだ)が主流で、空を飛ぶ方法は飛翔魔法しか無いらしい。

空を移動しようとすると、大型の昆虫、鳥、龍族などの魔物に襲われ非常に危険なため、交通手段は陸路しか無いのだそうだ。海を渡る船旅も危険で、サハギン族や海の魔物が多く、大陸間の交易路はほとんど機能していないのだとか。


 街と街、周辺の村や集落への道中の護衛任務の依頼は多数あり、集落などの防衛任務のクエストなども様々で、世界中に魔物が溢れている世界だという事がわかった。

アリーシャは聖職者の家系に生まれ、10歳から修道院に入って修行し、16歳になったので冒険者として登録し、人の役にたとうと独り立ちをした矢先の出来事だったそうだ。

 「16歳で、、、これか。」

自分の生まれ育った日本という国での生活とは、違いがあり過ぎて、気が滅入る思いがした。いきなり人が死ぬとこを目撃したり、嫌な冒険者を殺してしまったりと、

自分が空想で思い描いたファンタジー世界の、想像したくなかった部分を先に見てしまった。

街中には、人族の他に獣人族、虫族、竜人、ドワーフなど様々な種族が居た。

エルフ族なんてのも普通にいるらしい。


冒険者ギルドへ着くと、受付でアリーシャがあれこれと説明し始めた。

しばらくして奥から数人が出てきて、別の部屋へと連れていかれた。


 「Fランク冒険者アリーシャ=ストリーニャ、ヒト族、回復術士ね」

メガネを掛けた大柄の(2m以上ありそうな)男が話始めた

 「Eランク冒険者クラブン=スロウと、Fランク冒険者ハイロウ=シュベ、同じくFランク冒険者のルイダン=ダルイダンの3名が救助義務違反と奴隷契約要求を行い、さらにアリーシャを助けた民間人のヒト族を殺そうとした事を告発する。間違いないかな?」

 「はい。間違いありません」

とアリーシャは答えた

 「そして、アリーシャを助けた民間人の彼が、その冒険者3名を撃退、死亡させたと」

「はい。間違いありません。正当防衛です」

アリーシャは続けて答えた


 「なるほど。Eランク冒険者のクラブン氏には以前にも実は良くない噂があってね。その時は証拠不十分で何もできなかったが。どうやら本当だったようだな。」

ギルドの大柄な男性がそういうと、記録を取っていた書記官らしき人が立ち上がった

 「この件はこれで宜しいですね。では私はこれで失礼します」

スッと扉を開けてさっさと出て行ってしまった。


 「すまないね。彼女は今ちょっと仕事が山盛りでね。。。。さて、それではそっちの民間人の、、、君の話を聞かせてもらえるかな」

大柄の男は続けてそういうと、握手を求めてきた

 「私は元Bランク冒険者のバイダン。ここのギルド長を務めている」

とっさに立ち上がり、差し出された手を握って握手を返した

 「えーーーっと」

そうだ、自分の名前が思い出せないのだ。さっきから


 ギルド長のバイダンはそのままこちらを見つめている

 「僕はタケミナカタ・・・・武美=中田です。タケミと呼んでください」

とっさに、こっちの世界に来るときに出会った武神タケミナカタの名前を使ってしまった。

 「タケミ君、よろしく。見たところ我々ヒト族と変わらないようだが、その、、、

全裸で一人で森の中にいたとかで。。。。色々と確認をさせてもらいたいのだが、

どこの街の住民だろうか?冒険者ではないようだし、どこかの貴族の領民でも無いようだし、タグを提示してもらえると助かるのだが」

 大柄な男は穏やかな感じで話しているが、ダッシュで逃げても逃げきる事はできないだろう。握手しただけで勝てる相手では無さそうな雰囲気を感じた。

 「実は、、、記憶が無くて」

下手に嘘をつくより、事実をいう方が正解だろうと感じたので、そのまま話す事にするか、、、迷っていた

 

 「君はもしかして、異世界人なのか?」

バイダンギルド長にいきなり核心を突かれて驚いた

 「えっと、、、わかるのですか?異世界から来たって」


 「やはりか。タグの事も冒険者の事も何も知らないようだと言っていたので、もしやと思ったが。こちらの世界へ来たのは最近なのか?」

バイダンギルド長がそういうと、隣にいた若い女性職員が初めて口を開いた

 「すごい!私ドリフターの人に初めて会いました!」

いきなりテンション高めに握手を求めてきた

 「ドリフター?」

武美が返すと、バイダン氏が答えた

 「ああ、君のような異世界からの来訪者を、ドリフターとかビジター、クライアント、ゲスト、ゲートキーパーなど、色んな呼び方をするんだ。自分で名乗る者もいるが、この世界に来た方法や目的によっても呼び方は異なるし、地域によっても呼び方は多少違う。意味合いは大体一緒で、君のように異世界から来たものを指す言葉だ。記憶を無くした状態でこの世界に来たということで、彼女はドリフター(放浪者)と呼んだわけだね。」


 異世界の門を通るとき、武神タケミナカタから持ち掛けられた取引は【神力を一つ授けるから、この異世界で武神タケミナカタの名を広め、信仰を集めよ】というものだった。それで授かったアビリティがチート級能力だという童帝だったわけだが、、この目的は話すべきだろうか。。。目的を達成すれば、元の世界で生き返る事も可能だと言っていた。ステータスウィンドウに【信仰ポイント】という項目があるので、これを増やせばいいのだろうけど・・・


 「もし君がこの街で冒険者登録をするのなら、そのまま住民登録も可能だよ。しばらくの間は監視付きになってしまうが」


 「監視、、、ですか?」

まさかつきっきりでギルド職員がずっとそばで監視するのか?

 「監視というのは、発行したタグに居場所を追跡できる魔法を付与するんだ。冒険者として登録すれば、怪しまれる事もない。君自身を守る事も出来るし、万が一君が誰かに危害を加えようとすれば、駆け付けたギルド職員がタグに付与された魔法を発動させて制圧することが出来る」

 

 穏やかに話しているが、ずいぶんとおっかない事を言っている。しかし、他に方法も無さそうだ。

 「わかりました。見知らぬ異世界で一人では何もできないし、それで済むならそうします」

 バイダンギルド長の申し出を受け、監視付きタグを受け取り冒険者として登録をすることにした。


 「では、適正なども図るため、こちらの水晶に手を当ててください」

若い女性ギルド職員が、占い師が使いそうな水晶を取り出した

 (うさんくさーーw)

思わず笑いそうになったが、こらえて両手を水晶に当てた


 水晶が輝き、いくつかの色が放出された

 「青、、、紫、、、緑、、、なるほど」

 職員は一人でぶつぶつと呟いている

 「OKです。もういいですよ」

そう言われて水晶から両手を離した


 「無属性魔法と水魔法、風魔法と重力魔法の適性がありますね。でも魔法よりも物理戦闘向きかも。魔法の適性はそこそこなので、冒険者としては魔法専門ではなく、スカウト(斥候)や魔法戦闘士のアタッカーなどがいいでしょうかね。スキルツリーやステータスの割り振り次第ですが、成長系統までは分からないので、色々試行錯誤してみてくださいね」

彼女はにっこりと笑ってそう言った。

 「魔法戦闘士?スキルツリー?ステータスの割り振り?」

もはや聞きたいことしか無かった


 「うん。異世界人はそこまで珍しいわけじゃないが、有能なものは貴族に強制スカウトされたり、どこかの国に専属契約で召し抱えられたりと、なかなか自由に出歩く事が出来ない場合が多いんでね。だいたい異世界から来る時に特殊な能力を授かるらしくてね。それで活躍し過ぎて闇ギルドに狙われたり、色々さ。異世界人であることはなるべく伏せた方がいいのだが、このままではすぐバレてしまいそうだね(笑)

明日から2~3日、ここのギルドへ来なさい。空いてる職員がこの世界について教えよう。座学の勉強だ。もちろん、ちょっと働いてもらうよ。寝床も用意しよう。勝手に出歩いてトラブルを起こされては困るからね」


 意外にも、異世界人がとても珍しいわけではなさそうだ。この世界の一般知識を教えてくれるならそれはとても助かる。寝床も用意してくれるならなおさらだ。

いきなり野宿とかしたくはない。草原でも巨大な昆虫だらけだったし、能力10倍のおかげで足音や風の音、部屋の外の騒音なんかがずっと煩い。このままではノイローゼになりそうだ。能力の制御の方法でも学ぶしかないだろう。。。

そう思った矢先に、力の入れずぎで出された水を飲んでいたグラスを握り潰して割ってしまった

 「君の能力は、、身体強化か何かかな?異世界からこちらへ来る時に、何か能力を授かったりしたのかな?」

 バイダンギルド長がそう尋ねてきたので、嘘を言うわけにもいかず、能力の事を話した。


 「はい。パッシブアビリティとかで。常時全部の能力が10倍なんだそうです」

武美がそう答えると、その場に居た全員がとんでもなく驚いた

 「全能力が10倍!!??マナの消費も無しでですか?」

ギルド職員の女性に言われて気づいたが、ステータスウィンドウにあるマナの数値(どうやらMPのようなもののようだが)は0だ。

 「そのようです。マナの数値は元から0ですし」


 「それは凄いな。マナを消費した無属性魔法の身体強化でも5倍まではAランク冒険者やBランク冒険者でも使えるものはたくさんいるが、10倍となればそれこそSランク冒険者でないと使えないだろう。それをマナ消費なしで常時発動とは、、、、

それで力加減が出来ず、グラスを割ってしまったということかな?」 


 「はい。力加減が出来ないだけでなく、聴力なんかも10倍で、実は周りの音が聞こえ過ぎて煩いし。嗅覚も10倍なので、臭いとかだけでも頭が痛くなりそうなんです。」

今日一日だけで、すごく疲れていた。それは体力的な事ではなく、聴覚や視覚、嗅覚が10倍になり、それに体がついていかないのだ

 「そうか。それは本当に凄いな。一時的な力や速さの上昇だけでなく、知覚も10倍なら、初見でEランク冒険者を返り討ちにしたのも納得だ。しかし、その代償も大きいようだな。。。マナ消費が無いというメリットはでかいが。知覚が10倍だとなれば、日常生活は逆に大変かもしれない。メリットとデメリットはあるが、しかしそれを差し引いても、とんでもない能力なのは間違いないさ」


ギルド長はそう言ってくれたが、このアビリティのデメリットは、知覚が10倍で日常生活が大変だという部分などではなかった。


 「実は、、能力におけるデメリットは、、、別にあるんです」

武美がそういうと、一同は静まり返った

 「ん?能力のデメリットがあるのか?」

ギルド長が尋ねた


 「はい。聴力10倍も戦闘では役に立ちますし。常時発動というのは、戦闘時以外では疲れてしまうのでデメリットと言えなくもないですが。この能力のデメリットはそこじゃなくて【発動条件】にあるんです。」

武美がそういうと、ギルド長のとなりの女性職員が小さく口を開いた

 「なんなんですか?その発動条件って」


 「童貞です」

 「え?」

 「発動条件が童貞であること。なんです」

 「童貞じゃなくなると、アビリティが発動しなくなるってことですか?」

 「・・・おそらく」


そこまでのやりとりが小声で行われたあと、数秒の沈黙のあと、大爆笑が巻き起こった


 「それは、、、それはきついな!それは、、、、」

 ギルド長はなんとも言えない表情で部屋の天井を見上げた

 「そ。それホントなんですか?強くなればなるほど、捨てがたい能力なのに、、、、、嘘でしょw」

ギルドの女性職員は人生最大というくらいの声で爆笑していた

アリーシャは顔を赤くしたまま両手で顔を隠してこらえている


これ、能力の話をする度にこうやって爆笑されるんだろうか・・・・・

聴力10倍の耳に、大爆笑の声が突き刺さる。


 今回はギルドに登録するにあたり、危険人物ではないと証明するために色々洗いざらい話してしまったが、もう能力の話はしないようにしよう。

そう心に決めた。ギルドの会議室の窓から夕陽が見える。赤く染まった夕陽がゆっくりと沈んでいく。ああ、夕陽が綺麗だな。


 異世界へ来て、美少女をモンスターから助け、チート級能力で冒険者として名を挙げて・・・そんなファンタジーな冒険の始まりの初日は、夕陽にこだまする笑い声で終わった。


 


































 













 


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