異世界童貞-イセカイドウテイ-チート無双でも童貞縛り

KJHOUSE

第1話「異世界で童貞」


 死後、異世界へ転生してしまい、神様からチートスキルを頂戴して無双。モテモテのハーレム、猫娘、エルフ美女、冒険、英雄譚。そんな事を考えた事が無いわけではない。でもやっぱり、空想と現実は全然違った。


あの武神曰く、チート級スキルを引き当てたお前はラッキーだ!との事。

実感は無いが、兎に角発動条件が恨めしい。

「リセマラ不可」

あんまりじゃないか。


何が出来るのか、ステータスウィンドウで確認し、早くこの世界に慣れなければ、、、そう思っていると、女の子の悲鳴が遠くで聞こえた気がした。

目を閉じ、耳を澄ますと確かに女の子の声が聞こえる。それに何か得体のしれないうめき声もだ。


声は正面の森の向こうから聞こえるようだ。これは、、、行くしかない!

声のする方へ走り出す。体が軽い。少しジャンプすれば高い木の枝に飛び乗る事も出来る。さすが、、、全能力10倍は凄いな。

身体能力だけでなく、聴覚、嗅覚、視覚能力も10倍のようだ。

「それで遠くの悲鳴も聞こえたわけか・・・」


武神タケミナカタの授けたチート能力とやらは本物らしい。

ここで悲鳴をあげている女の子を助けて、冒険が始まるんだろうか、、、そんな思考が頭をよぎって、少しワクワクする自分がいる。


 ガサッ


木の上から様子を伺うと、悲鳴を上げたらしい女の子と、その一党(パーティ)らしき数名ががけ下の岩の壁に追い込まれている。


 モンスターは、、、数匹。ゴブリンぽいのが2匹。二足歩行のカエル?が1匹。

少し大きいゴブリン(ホブゴブリンってやつか?)が1匹。


 全部で四匹か、、、


 モンスターに襲われ、既に一人は無残な姿で横たわっている。一刻を争う状況のようだ。しかし、異世界へ来て即トラブル。自分に何が出来るのだろう。身体能力が10倍とはいえ、モンスターの能力や強さは未知数だ。素手で飛び掛かって勝てるのか?


 そう考えて、体が緊張して動いてくれない。


どうしよう。このままでは他の3人も殺されてしまう。。。

ゴブリンたちはいたぶるつもりのようで、脅かしたり威嚇したりして、悲鳴を上げる彼女らの反応を楽しんでいるようにも見える。二足歩行のカエルの化け物は、じっとしたまま動かない。


 ふと見ると、崖の壁の上には数人の人間がいる。

(なんで助けないんだ?)


いや、助けるどころか、ニヤニヤと笑みを浮かべながら下を見下ろしている。どういうことだろう。

ふと、その中の一人ががけ下の壁に追い込まれている少女に声を掛けた。

「ほらお嬢ちゃん。俺たちが助けてやるから、契約を結びな!」

がけ下の少女は青ざめた表情で首を横に振るだけだ。


 「契約って、、なんだ?」


 そう考えていると、さっき声をかけた男の隣にいる奴が口を開いた

 

 「俺たちならそのモンスターくらい余裕だし、すぐ助けてやれるぜ!迷ってるとそこの死体みたいになっちまうぞ!いいじゃねぇか。死ぬくらいなら、俺たちの奴隷になれよ!!」


 なるほど、契約というのは、奴隷になれば助けてやるとかそういう意味のようだ。


 「くそ野郎だな」


急に腹が立ってきた。

モンスターに気づかれないように木の下まで降り、隙を伺う。

ゴブリンニ匹は強そうには見えない。大柄なボスっぽいゴブリンだけ、厄介そうだ。


 ゴァァァァッ!!


その大柄なゴブリンが一番右側に居た人に槌を振り下ろした。


 ゴシャァッァァ


上半身が真っ赤に染まり、潰れて消えた。



 マジかよ。序盤でこんな強いのに遭遇するとか、ふざけてるだろ。

続けて真ん中に居る人を、1匹のゴブリンが手に持っている小さな槍でつついていたぶる。

突如二足歩行のカエルの化け物が、プクッと膨らました口から何かを出した。


ビタァァァァァン!


 カエルの口から飛び出した真っ赤な舌が、真ん中の人の顔面を岩壁に叩きつけた。


(嘘だろ。そんな簡単に人が死ぬのか!?)

やばい。このままではあの少女も死んでしまう。

崖の上にいるやつらも、本当に助ける気が無いのか?

奴隷とか契約とか言ってたけど、助けた後でその話をすればいいのに。

なぜ動かないんだ?


 もう猶予が無い。

決死の覚悟で助走を取り、思いっきり大柄のゴブリンに後ろから体当たりをした。


ッドーーーーーーーンッ!!


思いっきりぶつかった衝撃で吹っ飛んだ大柄のゴブリンが、岩壁にめり込んで潰れた。


おお、マジか。タケミナカタグッジョブ!本当に強いじゃないか。

心の中で叫びながらガッツポーズをしたい気分だった。

「これならいける」

振り向きざまに二足歩行のカエルを思いっきり蹴飛ばした。

サッカーボールのように吹っ飛んで木に叩きつけられたカエルは、口から何か色々なものを吐き出してぐったりと地に倒れた。

ゴブリン2匹は驚いて警戒し、距離を取っている。


 「逃げるぞ!こっちだ!」

生き残った少女の手を取り、森の外の平原へ向かって走り出した。

抱えた方が早いかもしれない。

そう思い少女を抱きかかえた。


やっぱりだ、全能力が10倍という事で、少女を抱きかかえて走っても、5kgの鉄アレイを抱いてるくらいにしか感じない。

高校では帰宅部だったけど、100mを12秒台前半で走れた。

能力10倍で100mを1.2秒で走れるなんて事は無いのだろうが、自分の身体とは思えないぐらいとんでもない疾さで走れる。

あっという間に森を抜けるところまで辿り着いた。


 「くそっ、なんだあの野郎。邪魔しやがって!捕まえろ!」


さっきの崖の上に居た悪党の声が聞こえる。

追手はおそらく崖の上にいた3人。

ゴブリンは追ってきてないようだ。

3人はそれぞれ距離を取りながら、包囲網を作る形で追ってきている。

ドスドスと足音が3方向から聞こえる。


身体能力10倍も凄いけど、聴覚や視覚も10倍ってのが驚きだ。

虫の声や羽音、動物の息づかいすらも聞き取れる。

嗅覚も10倍で、動物の獣臭が鼻にキツいが、安全なルートもそれで瞬時に判断ができる。


 森を抜け、最初に居た平原に戻ってきた。

正面に大きな岩が見える。1000mくらいか、、、、

「とりあえずあそこの岩まで行くから、しっかり捕まってろ!」

少女は身体を小さく丸めて震えながら頷いた。


3人の追手はけっこう遠く引き離したようで、足音は僅かにしか聞こえないが、間違いなく付いてきている。


大岩に辿り着き、少女を草陰に隠れさせて、自分は岩の上に立ち、追手を迎え撃つ。

足音は3方向から近づいている。まさか潜んでいるのに足音が丸聞こえだとは思うまい。

視力も10倍で、小さな草の揺れや、足音のする位置付近の人影などもしっかりと視認出来る。

空を飛ぶ昆虫の羽音が少々うるさいが、少女を抱えてココまで疾走出来たお蔭で自信が付いた。


 大丈夫だ、やれるさ


異世界への転生、チート能力、少女のピンチ、、、

いきなりの展開に、緊張からワクワクへと変わっていた。

大柄のモンスターを吹っ飛ばしたおかげで、もう恐怖は無かった。


左側から向かってくる男が弓矢を引き絞る音が聞こえる

キリキリキリキリ・・・


ジッと狙いをつけて様子を伺っているようだ。

右側の男は鞘から短剣を抜き、少しづつ近づいている。

正面の男は長剣を構え、低い姿勢でじりじりと距離を詰めている。


草陰から正面の男が立ち上がり剣を構える

「コノヤロウ!邪魔しやがって!」

わざと大きい声でこちらの注意を引こうとしたのだろう。

直後に左に居るアーチャーが矢を放った。

同時に右側の男が両手の短剣を構えて飛び掛かって来た。


 飛んでくる矢がはっきりと見えた。

動体視力も10倍か・・・凄いな

飛んで来た矢を掴み取り、それを右側から飛び掛かってきた短剣男の喉に突き刺す。


即座に大岩から飛び降り、正面で剣を構える男に体当たりした。

ドンッ!!

2mほど後ろに吹っ飛び、倒れ込んだ。

大柄のゴブリンが壁にめり込むほどの体当たりだったのに、この男は少し吹っ飛んだだけか・・・。

助けてやろうか?と声をかけていただけあって、さっきのホブゴブリンより強いのだろう。

とっさに全力で剣男の左足首を踏み潰す。


 ゴキッ!


鈍い音がして剣男のくるぶしの骨が砕けた。

ぎゃああああああぁぁぁぁ!!!


叫び声を上げている剣男の長剣を奪い、その体に長剣を突き刺す。

そして奪った剣を持ち、左側の弓兵の方へと駆け寄る。


放った矢を素手で捕まれ、一瞬で2人が殺されたのを見て、弓兵はすぐに逃げ出していた。

しかし、脚はこちらの方がはるかに疾い。

逃げようと全力で走る弓兵を後ろから蹴倒し、その後頭部に剣を振り下ろす。


3人の男の死体を大岩の下に集めて並べた。

異世界で、悪党とはいえ、人を3人も殺してしまった。

モンスターも倒したが、この3人の人間は殺意を持って殺してしまったのだ。


 なんて日だ。


目を閉じ、気持ちを落ち着けようと深呼吸をしようとするが、血の匂いが強烈で、吐きそうになった。


 「あの、、、助けて頂いてありがとうございました。」

先ほどの少女が近づいてきて声を掛けてきた。

 「ああ。。。気にしないで。大丈夫ですか?一緒にいた仲間は救えなかったけど、、、すみません」


なんとなく。夢中で戦っていたけど、彼女からしてみれば、一緒に冒険していた一党の仲間が3人も死んでしまったのだ。悲しくないわけがない。


 「モンスターとの戦いで冒険者が死ぬ事は、全員が覚悟しています。悲しいですが、日常というか、珍しい事ではありません。」


なるほど、、、冒険者なら皆そこは覚悟しているか。それはそうだろう。

しかし、追ってきたこの3人は何なのだろうか


 「この3人は違法行為をしていた冒険者です。私が証言しますので、首から下げているタグをギルドに持っていきましょう」

彼女はそう言って、死んだ3人の首から冒険者証明のタグを引きちぎった。

 「違法行為って?」

なんのことか分からず、彼女に尋ねた


 「私も、さっきの仲間も冒険者です。モンスターとの戦いで命を落とす覚悟はありますが、同じくギルドで登録している冒険者は、よほど相手が強く、全滅の恐れが無い限り、救助の義務があります。しかし、彼らは救助するどころか、見返りとしての奴隷契約を要求してきたのです。」


 「奴隷契約?」

よくわからず、オウム返しに尋ねた


 「ご存じないのですか?・・・奴隷契約はわかりますよね?契約を交わせばもう逆らう事も出来ず言いなりです。双方の同意が無ければ正常な奴隷契約は成立しませんので、助けてやるから奴隷契約をしろ!ではなく、奴隷契約を望むから助けてほしいと言わせるのです。だから彼らは救助義務があるのに助けず、奴隷契約の要請を誘っていたのです。」


 「あー、、、双方の合意が無い、正常じゃない奴隷契約ってのは?」

続けて質問する。


 「正常な奴隷契約でない場合、双方の身体に現れる奴隷紋が赤くなります。

赤い奴隷紋は強制の証で違法行為ですので、当然逮捕されます。」

彼女の説明でようやく理解が出来た。つまり、助けた女の子を、救いの見返りに奴隷にしてやろうと考えたが、強制紋では捕まるため、自分から言うまで助けずにいた。

ということか。


 「それに、冒険者ギルドへ登録している正規の冒険者同士の間で、救助の見返りに奴隷契約を要求するのも違反なのです。でも、正常の奴隷契約は締結されてしまえばだれも口出しはできません。違反の証拠が無ければ罰する事も出来ない。なので、救助義務を無視して様子を伺い、救助を求める冒険者から奴隷契約を自分から言わせるというのは、珍しい話ではないんです。」


 ムナクソ悪い話だ、、、


 「冒険者ギルドに登録されている冒険者を殺す事も違法ですが、今回は彼らが違法行為をしていたことを私が証言しますので。貴方は大丈夫です。」

なんてことだ、冒険者キルも違法なのか。

まあ、そりゃそうだろう。冒険者同士の諍いや闘いで死者が多発するのを防ぐ方法としては、当然だ。


 「私はアリーシャ。人族(ヒトぞく)のヒーラー(回復術師)です。町のギルドで登録されているFランクの冒険者です。」


 ABCDEF・・・あーっと、たぶん下位ランクの冒険者なんだろう


 「貴方は、、冒険者では無さそうですが。その、、、、その恰好でずっと旅をされているのでしょうか?」

アリーシャが顔を赤くしながら言った。


 そう言われて自分の姿を見てみると、、、全裸だった。

まさか、全裸で少女を助け、全裸で少女を抱えて走り、全裸で剣や弓を持つ冒険者と戦っていたのか。

そして、アリーシャのシスター装束と、推定FかGカップはありそうな胸を見て、我が息子はけっこう元気ハツラツになっていた。


なんてことだ、、、むしろ3人の冒険者を殺して、少女を襲おうとしているのは自分のようではないか。全裸の変態男、、、ヤバい。


兎に角、このままでは不味いと、死んだ3人の冒険者の衣服を剥ぎ取り、血が付いてないズボンと上着を拝借することにした。下着はさすがに嫌だったのではいてない。

弓と剣と短剣、小物の入った袋と手甲、脚甲、胴衣を剝ぎ取ろうとしていたら彼女が声を掛けてきた。


 「死んだ冒険者の装備品は、荷物を持ちきれないなどの理由がない限り回収してギルドへ提出します。売却金が遺族への給付金に充てられるのです。私はさっき殺されてしまった仲間のタグと装備品を回収しに行かなければなりません。付いてきて頂けますか?」

彼女に言われ、装備品を剥ぎ取るのをやめた。

彼女が空間収納魔法のLv1を習得していたので、装備品はそこへ全部放り込んだ。

収納魔法のLv1では小さな押し入れくらいのサイズまでしか入らないそうで、死体の回収は諦めた。


 空間収納魔法とは、、、便利なものがあるんだな。


彼女は少女かと思ったが16歳らしく、年齢は同じだった。

冒険者だけあって身体はよく締まっており、後ろ姿を見ていると、くびれ、お尻、脚などのラインは美しく、正面から見ると顔ももちろんかわいいのだが、その推定Gカップバストがド迫力で、目のやり場に困る。

町へ戻る道中、命の恩人という事もあって、彼女はとても好意的だった。


 「助けたお礼に宿で恩返しを・・・」


そんな妄想が頭をよぎった。しかし、それは出来ない。

せっかく美少女を助け、命掛けで戦い、救い、命の恩人という事でお近づきになって、千載一遇のチャンスとしか言えないこの状況で・・・・・・


気落ちしながらステータスウィンドウを眺める


Lv2 人間 男 ジョブ無し 

アビリティ「童帝」 種別パッシブ


パッシブアビリティとは、常時発動される能力の事で、発動したり止めたりを自由にできない。ずっと発動する能力だという事だ。


アビリティ「童帝」

効果 全能力が常時10倍になる 

発動条件「童貞」


発動条件童貞って、、なんだよ。

童貞じゃなくなったら能力消えるのかよ。。。。。。

せっかくこんなに凄いチート能力を授かったのに、どんだけ無双しても、

女の子にモテても、ハーレム出来ても、童貞縛りじゃなにも出来ないじゃないか。

「リセマラ不可」


異世界へ来る前に、武神タケミナカタと名乗る神さんに出会い、チート能力を授かったわけだが、もはや何も期待出来ず目の前が真っ暗だった。


異世界でも、、、ずっと童貞なのだろうか















































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