第10話 キラキラしたモノ
剣士と呼ばれている男 Side
部屋を出ていく女性の背中を目で追いながら思考の海に没する。まさか己が無魔力者なんて事実を今更突きつけられるとは思わなかった。
聞いたことはあった。全く魔力を作り出すことができずに死んでいく者達のことだ。固定された左腕をみる。黒い魔力が皮膚に張り付くように波打っている。
彼女の魔力とは大違いだ。白い魔力が全身を覆い星の様に瞬く光が溢れていた。美しく優しい魔力だった。
そんな彼女は聖女ではないと言う。ここにたどり着くまでに得た情報とほぼ変わりはなかった。ただ違うのは黒い髪に黒い目だったことのみ。
普通の人には到底できないことをいとも簡単にできてしまい。膨大な魔力を身に纏い。常にキセルを片手に持ち過ごしていると。
人から聞いた話そのままだった。なのに彼女は聖女ではないと否定する。
そもそもこの国に来たのは聖女と呼ばれる人物が現れたと聞いたからだ。2年前に主神エラティラスから啓示を受けたという人物が現れ、聖女として認められたという噂を得たからだ。
しかし、この国に入ってから聞いたその人物の噂は悪いものばかりだった。聖女といっても怪我も満足に治せない。病に侵された子供には近づくなと言い追い返し、魔物を討伐するがただそれだけだと。
そして、皆一様に口をそろえて言った。
『白銀の聖女様の方が良かった』
『行方がわからず、あの女に殺されたのでは?』
『あの女は魔物より
と。
ある時、一人だけ違った情報をくれた人物がいた。白銀の聖女の身の回りの世話をしていたという騎士の女性だ。
『白銀の聖女様の事を知りたいって?あの方は変わった人だったよ。ふふふ』
何かを思い出したかのように笑い、話をしてくれた。
『あの方はどんなときでも寝食は大事といって、魔物をどうやって美味しく食べようかと研究していたり、地面が痛いからといっていきなり魔物の毛皮を剥ぎ出したり、突拍子もない行動に驚かされてばかりだったよ。』
『ある地方に行ったときなんて、“温泉だ”と言っていきなり地面を掘り出したり、ドワーフの町に行ったときは魔物専用の料理包丁が欲しいなんて言い出したり、あの方と共に行動していたら、辛いはずの魔物討伐の遠征も遠足の様に楽しいものだった。今と違って』
『あの方が何処にいるかって?
はぁ。未だに私はあの場になぜ居なかったのだろうと後悔ばかりが心を締め付ける。
竜の谷だ。普通なら死ぬために行けと言われる場所だが、あの方ならきっとそこでも楽しそうに過ごしていると思う。
まぁ、これは私の希望であり、願いでもある。あの場所には安々と立ち入ることはできないから、生きて戻って来て欲しいと言う私の勝手な願いだ』
確かに彼女はこのドラゴンが多く棲み着くこの場所で、ドラゴン達と隣人のように親しく暮らし生きていた。
この場所に着いて早々に出遭った青いドラゴンに白銀の聖女の事を尋ねると、殺すぞおと言わんばかりに威嚇してきた。
彼女がここでも慕われていることは明白だった。
普通ならここで敵意はないと示さなければならないところだが、俺の身を蝕んでいる呪いが勝手に動き出した。大剣を抜きドラゴンに差し向けた。
ここ最近よくあることだ。自分の意思と関係が無く体が動いてしまうことに。自分ではない何かが体を動かしていることに。
いつもの俺ならあんな無様な戦い方などしない。手足を失い打ち捨てられるなど。
しかし、こうやって目的の人に会うことができたのなら、それも良かったことなのだろうか。
今は閉じられてしまった扉を見る。そこから変わった旋律の歌が聞こえてきている。この国の言葉ではない。何処の国の歌だろうか。旋律がとても耳に残る歌だ。
嵐の音がうるさい。歌がよく聞こえないじゃないか。
あの声で名前を呼んでくれないのだろうか。名乗ることを拒否されてしまった。確かに、怪我の治療の為にここにいるとするなら、治ればここにいる理由は無くなる。そんな者の名など知る必要もないということか。
俺の中にある黒い塊が蠢き出す。欲しいな。アレが欲しいな。キラキラしたあの白いモノがホシイ。
ホシイ
ホシイ
ホシイ
どうすればココに落ちて来てくれるのだろうか。
この国の王子がアレを捨てたのなら、オレが貰ってもいいよな。あのキラキラしたモノ。
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