第9話 貴女は白銀の聖女ではない?
「ここのドラゴンの?」
ああ、この竜の谷に住んでいるドラゴンの肉かと思ったのか。
「これは以前南の方で討伐したレッドドラゴンのスープ。体を回復するのに適しているから、食べれるのなら食べた方がいい」
そう言うと素直にスープを食してくれた。ドラゴンは死した肉でも高魔力を保持し続けているから、彼にとっていい食材のはずだ。
スープを完食した目の前の人物に少し話がしたいと私は言葉を繰り出す。
「剣士さん。質問をしてもいい?」
「名前」
しかし、私の言葉の続きは紡げなかった。
「名前を言っていなかった。俺は「ちょっと待って」」
私は名を告げようとする目の前の人物を遮る。面倒な事に巻き込まれるのは御免だ。
「治療が終わったら出て行ってもらう。だから、名乗る必要はない。私のことも好きな様に呼ぶといい」
「そうか」
そうかと言った後、俯いてしまい表情は窺い知ることは出来なかった。名など知る必要はない。ここを出て行ったあと関わりなど持たない人物の名など知らなくていい。
この谷でドラゴン達が私の名を呼ばぬように、私も彼らの名を知らぬように、必要の無いことだ。
名を呼んでしまえば、名を呼ばれれば何かしらの情が湧く。だから、必要はない。
「質問をするけど答えられる範囲でいい。答えたくなければ答えなくていい」
私は
「この竜の谷に何をしに来た?多くのドラゴンが住むこの地に命を危険にさらしてまで、なぜ足を踏み入れた?」
「白銀の聖女に会いに来た」
「なんの為に?」
「白銀の聖女なら呪いを解除できるかもしれないと聞いたから」
やはりそう言うことか、なら彼自身は知っているのか確認しなければならない。
「それは死ぬために?」
「は?」
思ってもみなかったのだろう質問をされ、俯いていた顔を上げて私を見た。彼自身は知らなかったようだ。己を蝕んでいる呪いに生かされているなんて。
私は
「質問を変えよう。それはいつから有る?」
「物心ついた頃にはあった」
「今と同じ状態で?」
その言葉に彼は何かを思い出したかのように『あっ』と声をもらす。
「違う。母が生きていた時は赤色の不思議な紋様のモノだった」
そう、やはり彼の母親は子供の異常に気が付き護りの
「剣士さん。貴方、無魔力症だと言うことをそのお母様から教えられている?」
私が言ったことに目を見開き驚いている。そして、ゆるゆると首を横に振った。
知らなかった。教えられていなかった。
私の予想通りかと煙を吐く。彼は一生その呪と共に生きなければ、生きながらえる事ができない。
知りたいことは知り得たので、彼に事実を突きつけなければならない。
煙を肺に満たし、大きく吐き出す。
「剣士さんに謝らなけばならないことがある」
「貴女が謝ることは何もない」
「いいえ。その失った手足を元に戻せると豪語したけれど、私は魔力を持った人にしか治療を施したことがない。
患者自身の魔力を引き出して細胞の急速再生を促す。それが私のやり方。
けれど、剣士さんには魔力が無い。私の魔力のみで構成された手足は体に定着する確証はないから、治らないかも知れない。ごめんなさい。聖女と呼ばれる神の御業を使う人なら違ったのだろうけど」
「貴女は白銀の聖女ではない?」
ん?何処をどう見て判断した?見た目で判断できる材料は無くなったはず。
「白く煌めいている魔力を持っている貴女が白銀の聖女ではないと言うのか?」
そっちー!今の戦闘状態じゃない私はそこまで魔力は溢れていないはず。普通は目視出来ない······いや、私を見ている黒く濁った目は普通ではなかった。
「普通は人の魔力なんて見ることは出来ない。人々は見た目で判断しているもの。私の魔力が白いのは認めるけど、聖女と呼ばれる様な力は一切持っていない。それに信仰心もそれほど持ち合わせていない。」
煙を吐き出しながら、荒れ狂う窓の外に視線を移す。
「神に祈っても······何でもない。」
ここで愚痴を言っても仕方がない。視線を戻し、困惑の表情をしている人物を見る。ああ、そう言えば返し忘れていた。亜空間から壊れた大剣と彼の荷物らしき物を取り出す。
「これ剣士さんの荷物であっている?あと、鎧の方は外し方が分からなくて壊してしまったから、代わりの物を用意させてもらう。ごめんなさい。」
何か信じられない物を見たような顔をしているけど、亜空間収納を初めて見たのだろう。
「眠れるようなら寝ておいたほうがいい」
そう言って私は部屋の外に出た。
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