第6話

 先生、もしくは極東の誰かへ。

 あれから一月と少し経ちましたが、お元気でしょうか。

 私は元気です、それと仕事にも慣れてきました。

 先生、今どこにいるの? ヴァレーリ家の人に探してもらっているけれど、あなたの行方は一向につかめないままだ。

 死んでいたりしないよね、ちゃんと生きているんだよね。

 どうか無事でいて欲しい、早く迎えにきて。

 ……今日は、一つとてもいいことがあったのでそれの報告ついでに今までのことを話そうと思う。

 前回話した時から今まで、私はヴァレーリ家の使用人として働いていた。

 驚くべきことにヴァレーリ家の人々はヤキツケだからと私を馬鹿にしたり軽んじたりしなかった。

 多少どころではない偏見や差別は覚悟していたのでとても拍子抜けしている。

 ただ、時折同情的な目で見られることはある。

 まあ……ヤキツケの上に育ての親が行方不明、その上で家が全焼っていうのは自分でいうのもなんだけどなかなか酷な体験だと思うので、仕方がないのだろうと思っている。

 ……と、まあなんか思っていたよりもずっといい生活を送らせてもらっている、だから安心して欲しい。

 仕事を教えてくれる先輩も優しいし、シアン様やフィヨーレも私の事を気にかけてくれているんだか、ちょくちょく様子を見に来てくれる。

 ……あれから一ヶ月経ったけど、未だにあの謎の蛍光ピンクことフィヨーレの素性はよくわからない。

 わかっているのは名前と夜に仕事をしていることと、それから年齢だけ。

 嘘でなければ私と同い年だそうだ、そういやシアン様も同い年だって話だったな。

 種族に関しては何度か聞いたことがあるけど毎回はぐらかされている。

 なんの種族なんだろうか? 暖色系のサファイアとかロードナイトとかエオスフォライトかなって思ってるけど、なんか違うような気がする。

 エオスフォライトは見たことないけど、サファイアとかロードナイトはやっぱり違うような……

 なんだろう、説明しづらいけどあいつなんか独特な色をしてるんだよなあ。

 容姿が整ってるのも相まって、ゾッとするくらい綺麗なんだ。

 あとね、あいつなんかめっちゃいい匂いするの、甘くてお上品な感じの……

 ……それにしてもなんではぐらかすんだ? ひょっとしてかなり珍しい種族だったりするんだろうか?

 ああ、でも確かシアン様はあいつのことを一族の汚点だって言ってたから……はぐらかす理由はそれか?

 不倫で出来た子で、親を隠すために種族も隠している、って感じだろうか。

 ヴァレーリ家の現在のボスの子はシアン様だけだって話だけど……隠し子、だったりするんだろうか。

 だとしたら色々と辻褄が合うんだよなあ……

 いや、もうやめておこう、あんまり深い事情を知ると消されたりするかもしれないし。

 それになんの種族であれあいつが私の命……というか貞操やら人間としての尊厳を守ってくれた恩人であることに変わりはない。

 ……と、まあ今までのことで報告することはこれくらいだ。

 それじゃあ、今日あったとてもいいことの話をこれからしようと思う。

 私が奴らに……あの奴隷商人に捕まった時に取り上げられた蜻蛉玉が、帰ってきた。

 私が推定で十歳になった頃に先生が私にくれたあの夜空とくらげの蜻蛉玉です。

 シアン様が、見つけてくれました。

 あの人はそれ以外のものは見つけられなかったって言ってたけど……

 私、恥ずかしいことにあの人の前でぐっちゃぐちゃに泣きはらしてしまったよ。

 ひとつだけだけど、私はやっと先生と私を繋ぐものを……大切な宝物をこの手に取り戻すことができた。

 シアン様は泣く私に何も言わず、ただそばにいてくれた。

 忙しいだろうに、部屋から追い出すこともせず、ただ静かに私のそばにいてくれました。

 ……先生、私はひょっとするとはじめて……あなた以外の人を好きになれたのかもしれません。

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