第6話

 俺たちの初デートは、カフェ巡りだ。正直、遊園地とかで人混みに行くよりかはマシだった。俺と凛花は、まず駅前のカフェへ行ったが朝から行っただけまだ空いていた。いつもは、学生やらサラリーマンでいっぱいだが休日の朝だけあって空いていたし、静かで落ち着ける雰囲気があって、俺たちは最初から疲れることがなくて少し安心した。

「ねね、澮くんは何飲むの?やっぱりブラックによく合うのってやっぱりアフリカとかあっちの豆選ぶの?」

 俺は結構びっくりした。多分、普通の学生はフラペチーノとかで有名なアソコばかりでコーヒー豆とか全く知らないと思っていたが、さすがカフェ巡りをしようと言っただけある。

「俺は、ブラックは苦くてまだ苦手だから凛花の言うとおりアフリカの方のコーヒー豆をよく選ぶよ、ケニア産は結構飲むかな。」

「充分大人の舌じゃん!」

 と凛花が笑いながら言った。高校生の恋人同士ってこんな話でいいんだろうかと、俺は心の中で苦笑いしていた。しかし、俺はこうやって、コーヒーだけでこんなに話せる人は滅多にいなかったために、案外楽しんでいた。

「そんなことないよ。最初の一口は、ブラックでその次からミルク入れちゃうから、意味ないよ。」

 と、俺も笑いながら言った。

 そして、俺は注文を言った。

「ケニアのハイローストのストレートで、あと、」

 と、俺が言いかけた。するとすぐに

「グアテマラのミディアムローストで、サイズは、2つともMで、あとアイスで、えーっと持ち帰りで、お願いします。」

 店員さんは、ニコニコと笑いながらかしこまりました。と言って、厨房へ行き、またオーダーをとっていた。俺たちはレシートとミルクとガムシロを片手にコーヒーを待っていた。コーヒーが来た時、2人揃って1歩大きく踏み出した。まるで二人三脚をしているかのように、俺は小声で「俺が行くよ、これ持ってて。」と言い、ミルクを凛花に託して、コーヒーを受け取った。店内でミルクとガムシロを混ぜて俺たちは、駅前のカフェを出た。なぜなら、同じ高校らしき人達がたくさんカフェに入ってきて、とてものんびり過ごせるような状況ではなかった。

 それから、俺たちはそれぞれの行きつけのカフェを巡り、今のように注文を繰り返しては、外で飲み歩きをして気づけば海に着いていた。それは、電車やらバスを使えば海にもたどり着くはずだ。幸いにも、まだ昼ぐらいで、そこまで人がいない砂浜だった。こういう所を穴場と言うんだろうなとどこかで再認識していたすると、凛花は、こう言った。

「私の最後の行きつけのカフェはね、海の家なの!夏限定が悔しいのよ。ここのコーヒーなら私もブラック飲めるんだよ!」

 と、胸を張ってまるでえっへんと言っているかのようだった。俺はその瞬間、凛花のことを結彩奈と言いかけた。まるで、結彩奈が喋ってるんじゃないかと、錯覚してしまったんだ。

「…くん!澮くん!澮くん、大丈夫?」

 俺のことを心配する姿も結彩奈だと思ってしまった。きっとどこかで願ってるんだろう。

『結彩奈は、生きていて今も俺のことを心配して、またついて来てくれる』と。泣きそうになったが、そんなこと今は絶対出来ない。だから俺は、大丈夫と言って、凛花に所持金があとどれ位あるかを聞いて、俺はこう言った。

「もし、良ければなんだけど、カフェ巡りから海水浴にしない?まだ日も高いしどう?」と言った。

「いいよ!海水浴楽しいよね!ちょっと待っててね!」と、言って海の家に走っていた。

 するとすぐに戻ってきて、

「実はさ、この海の家、私のおばあちゃんの家で、水着くれる?って言ったら、いいよだって、どうする?」と聞いてきた。

 俺は、自分からこの提案をしたので拒否することは、無論出来ない。

「お願いします。だけど、今度ちゃんとお金は払うよ。」

 タダで水着なんてとても貰えない。と言うような顔をしていたんだろう。凛花が、

「そんな、申し訳ないって言うような顔しないでよ。」と、笑いながら言った。俺は、凛花から、水着を受け取って更衣室で着替え、凛花のおばあちゃんに荷物を預け俺たちは海に入っていた。

 もう夏に入ってだいぶ経つと言うのに、海は冷たかった。それでも、凛花は楽しそうに笑って泳いだり、水面を叩いたり、潜ったりそれは、幼い子と変わりないかもしれないが俺は、そうやって凛花が結彩奈の双子の妹ではと、推測するだけでも、罪悪感や後悔、そうやって自分を責めることしか出来なかった。

 しかし、こういう時俺は、いや普通の人はこの負の感情から逃げようとする。例えば、人に当たる、物に当たる。だからこそ、俺は向き合おうと思った。

 俺たちが、海から上がり凛花のおばあちゃんの家に戻り、シャワーを借り、帰路に着いた。帰りの電車で俺は、凛花に質問した。

「凛花は、兄弟いるの?」

「いないよ。でも、たまに私に兄弟がいるんじゃないかって思う時は、あるよ。だけどわかんないの。ごめん、上手く言えなくて。」

 珍しく、凛花は落ち込んだように、悲しい顔をして、下を向いた。

「こっちこそごめん、大丈夫だよ。気になっただけだから。」

「違うの。ううん、違くないんだけど、本当のことを言っても信じて貰えないんじゃないかって思うと怖くてね。」

「無理して言う必要は、どこにもないよ。」

「ううん、澮くんなら大丈夫な気がするから、話す!」と、泣きそうな顔で俺にそう言った。

「私は、小学校の低学年辺りまでの記憶が全部ないの。俗に言う、記憶喪失。それで、私が知ってる1番古い記憶は、孤児院に居て、今の両親に拾ってもらったってことなの。」

「小学校低学年辺りまでの記憶が全部ないってことは、名前とかはどうしてたの?」

「孤児院に入ったばっかの時、カバンを握りしめてたのそこに名前が書かれてあって、だから、私は高梨凛花だって言うことがわかったの。」

「そうなんだ。ごめん、、」

「澮くんがそうやって、悲しそうにすることないのに。ありがとうね、澮くん。」

「俺は何も、話を聞くことしかできないからご…」

「ストップ!この話はここでおしまい。これ以上は、謝り合戦になる。」

 と、凛花はまたいつものように笑いながら言った。

 俺たちは、帰りの電車で、凛花の話を聞いてから、2人揃って寝てしまったらしいが、そろそろ、俺は電車を降りなければならなかったが、凛花は、とっくに起きていた。

「おはよう、澮くん。降りる駅もうソロで着くよ。今日は、ありがとうね。楽しかったよ!」

 と、笑いながら凛花は言った。

 そして俺は、「俺も楽しかったよ。ありがとう。」と、言った。たぶんこの時、俺は自然に笑った笑顔だった気がした。

 それから、電車を降りて駅を出て、家に帰った。すると、水翔が俺の家の前に立っていた。

「澮、お前、約束破ったな!俺に、新作のカフェラテ奢るって言ってたよな!何で朝からいないんだよ!澮のバカ!!」

「悪いって。水翔じゃあ、明日一緒に飲みに俺とカフェに行くか?」

「ふん、あったりまえだ!」

 心の中で、水翔が何を考えているのかさっぱりわからなかった。

 俺は気づいていなかった。電車で寝ている時に1本の留守番電話が入っていた。

 留守番電話通知の下に名前が出た。

 高梨【結彩奈母】と。

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