第5話

 俺は、戸惑いつつ水翔の家から自分の家へ帰った。そして、渡された結彩奈の両親の手紙を読んだ。

  澮くんへ

 多分君は、自分のせいで結彩奈を死なせてしまったと思ってるみたいだけど、それは違うよ。あの日、確かに結彩奈は、交差点で車に跳ねられて亡くなったけどね、それは君のせいではないよ。だから、自分のことを責めないでね。きっと結彩奈もそれは望んではないからね。この手紙を読んでまだ結彩奈のことを思い出しても結彩奈のこと、自分のことはどうか嫌いにならないであげてね。今度、時間がある時に、私達の家に、結彩奈に会いに来てね。君のことを待ってるからね。

結彩奈の母より


  澮くんへ

 まず君には、感謝しかない。色々ありがとう。なのに、君を追い込む形になってすまない。私達、夫婦が離婚するとすぐに結彩奈は、学校でも近所の人からも冷たい視線でよく見られ、1人で家にいることが多くて、それに特別、運動や勉強ができたわけでもなかったために、よく学校からの電話は悲しいことばかり聞いていたよ。だけどね、君と出会ってからか話すようになってからかは、私は当時学校にいたわけでは無いから分からないがね、学校の先生からは、「結彩奈が明るくなった。」とよく言われてね。本当に感謝しきれないよ。結彩奈の片割れのあの子には、1ヶ月に1回しか会えないがためによく寂しい思いをさせてきたあの子に、楽しい時間をくれたのは、他でもない、君であることに変わりない。だから、自分を責めないでおくれ。今度君が結彩奈に会いに来ることを楽しみに待っているよ。

結彩奈の父より

 結彩奈の両親は、俺が自分のことや結彩奈のことを嫌いにならないで、自分を責めないでと言っていたが、当時の俺にとって、結彩奈の存在はとてもかけがえのないものだった。

 それは恋愛感情と呼ぶものかは、全く今となっては分からないが、親友のようになんでも話せ、姉や妹のようなどこか安心し、母親のように包容力があった。俺はそんな結彩奈を巻き込んでしまったことには、変わりない。

 だからこそ、俺は自分の能力を人に話さず誰のことも信用しないようにして、人から距離をとった。なのに、俺は興味本位で、高梨さんを巻き込み、期間限定で恋人同士なんて馬鹿げてる。俺は結彩奈の二の舞をやるかもしれないとも考えなかったんだ。

 俺は、結彩奈の両親が自分を責めないでと言っていたがそれは、できそうになかった。なぜなら、もう既に自己嫌悪と後悔で心も頭の中もパニック状態だった。

 その時、結彩奈の両親からの手紙が入っていた封筒から2枚の葉書と1枚のメモが出てきた。メモには、こう書かれていた。

 何か話したいことがあったり、困った時はいつでも私達が相談に乗るからね。この葉書を君に渡すから何かあった時とかに使ってね。と書かれていた。

 そして葉書の1枚は、結彩奈の父親宛になるようになっている葉書、もう1枚は結彩奈の母親宛になるようになっている葉書だった。

 俺は、冷や汗をかき、夏の陽気なはずなのに、震えが止まらなかった。結彩奈の母親の旧姓が、高梨だったなんて知らなかった。俺は、考え込んだ。こんなに条件が揃ってしまっていいのだろうか。俺が守らなければと思った子の苗字は、高梨で、昔俺の事を信じて、巻き込まれて死んでしまった結彩奈の母親の旧姓が高梨、おまけに、結彩奈には、双子の妹がいた。ならば俺と同い年のはずとなると、俺と同じ学年にいることになる。

 俺は、後先考えずに結彩奈の母親宛になっている葉書に、こう書いた。

 拝啓

 梅雨明けが待ち遠しい頃、むしむしとした日がつづきます。

 僕の事を心配してくださりありがとうございます。僕は、結彩奈さんの事を嫌ったことなんか1回もありません。ですが、気になることがあるので、今度時間がある日にそちらへ伺おうと思いますので、大丈夫な日がわかり次第、この電話番号へ連絡してください。俺の携帯の直電です。

 お身体には、お気をつけて。

 敬具

 知り合いの親に渡す手紙だし、なるべく綺麗に大人ぽく書こうとすると、やはり拙いがそれでも、会って話したいという事は伝わるだろう。あとは、結彩奈の母親にあって高梨凛花という女の子を知っていますか、と聞くだけだ。それでもし知っていたら、詳しく聞いて、知らなかったら、なぜ結彩奈の日記とアルバムを渡したのかを聞けばいい。

 俺は、誤字脱字が無いか確認して、ポストに出して自宅にもどった。自宅に戻ったはいいものの、夕飯を食べる気にならず、すぐに寝てしまった。

 そして、夢を見た。それは、運命が変わった、校外学習の夢だった。

 俺と高梨さんは、変わらず俺と同じ班だった。変わったことはいくつかある。1つ目は、俺が高梨さんに告白して、付き合っている。ということが色んな人に知れ渡り、俺が日頃から一緒に登下校をして傍を離れなかったおかげで高梨さんは、いじめられるずに済んだ。2つ目、俺と同じ班に水翔が加わったことだ。水翔が加わったことで何か変わったのかは、夢の最初ではわからなかった。

 夢の最初が終わり、中盤に入った。中盤の始めは、変わらなかったが俺と高梨さんは

決裂することになった。その決裂の原因は、校外学習で、必需品として生徒手帳が必要だった。だがその手帳には、結彩奈の名前が書いてあった、しかし俺はその手帳を高梨さんの目の前で落としてしまった。そして落ちた瞬間に、結彩奈の名前が書かれたページを開いてしまい、高梨さんが俺の生徒手帳を拾った瞬間俺たちは、完璧に崩壊した。それは期間限定の恋人同士ではなく、友達関係から崩壊したのだ。その理由は、多分結彩奈の母親から聞く内容なんだろうなと思った。それからすぐに俺は目覚めた。俺は、学校へ行く準備をして、高梨さんとの合流場所の駅へと向かった。

 高梨さんと合流して俺は尋ねなければいけないことがあった。それは、

「高梨さんって姉妹いるの?」

「いる!らしい。あんまりよくは知らないんだけどね。お母さんが言うには、すっごい仲がいいお姉ちゃんがいるって言ってたよ。」

 ニコッと笑いながら話してくれたが俺は、確信を突いた気がした。そしてさらに確信に迫るためにもう1つだけ聞いた。

「高梨さんってどこ中出身なの?」

「んーとね、言ってもわかんないんだろうけどね、○○市のね、△□中学校出身だよ。」

 これではっきりした。なぜなら、○○市というのが、俺や結彩奈の幼少期に住んでいた市の隣の市だからだ。

 すると、後ろから走ってくる足音がした。そしてその足音は、どんどん近づいてきた、それは、水翔だった。

「おはよー!お2人さん、朝から熱いですね!一緒に登校ですか?」

 とニコニコしながら水翔がやってきた。恐らく、水翔は、ずっと俺の後ろをついて来たのだろう。多分、水翔は、昨日の続きを話したいのだろう、だが今それを話されては困る。そこで俺は、水翔にある交渉をした。

「おい、水翔!いいか、今俺のいや、俺たちの邪魔をすると今日お前に奢ってやろうと思った、お前の大好きなカフェラテの新作奢るの辞めるからな。」

「あっ、くそ!卑怯者!」

 すると、水翔はしぶしぶ別の方向に行ってくれた。

「ね、あのさそのカフェラテって、もしかして、駅前のカフェの新作?」

 と、高梨さんが尋ねてきた。

「そうそう、俺と水翔は、小さい頃からの腐れ縁でさ、小学生あたりの時に、大人の味挑戦とか言って、俺たちがそん時飲んだブラックコーヒーを頼んだお店がここのカフェのチェーン店で、そっから俺たちは、コーヒー派かカフェラテ派かでよく話してるんだよ。」

 と、俺は笑いながら話した。多分ここでしんみりした顔をすると怪しまれてしまうと思ったからだ。すると、高梨さんは、笑いながら

「じゃあ、澮くん!約束よ!今週末は、カフェ巡りよ!」

 と言った。

 俺は、笑って了解と言った。

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