稲荷紺のメス堕ちロード

あきかん

第1話

 めちゃくちゃ眺めが良いらしいぞ、と誰かが言っていた。だから、僕は屋上に行こうと決めた。山籠りから帰ってきた稲荷紺は、屋上に立ってやろうと思った。


 高校一学期の最後の日。ようやく稼業の修行から開放された俺は屋上へと向かっていた。

 陰陽道の修行だと言って親父に山へと連れ去られた。そこで格闘技を徹底的に叩き込まれた。何故?陰陽道に格闘技何だ?もっとこう式神とか呪術とかあるだろう。悪霊を祓う術式とかを教わると思っていた俺は面を食らった。

 親父が言うにはこうだ。力こそパワーだ。悪霊だろうが鬼だろうと、先ずは力で対抗出来なければ祓う事など夢物語なのだ。と訳のわからない説明を受け、中学の三学期から今日まで学校にも行かず、地獄の日々を山で過ごしていた。

 終業式に他の生徒が向かう中、僕は近くの同級生に屋上へと行くと告げた。

「サボるのはいいが、屋上へ行くのは止めておけ。あそこには鬼がいる。」

 そう言われたが鬼退治は僕の本業だ。そんな事で臆するわけにはいかない。

 屋上へと続く階段を登る。蛇が出るか鬼が出てくるのか。どちらでも良い。退屈な学校生活など御免こうむる。楽しい生活が屋上から始まる。きっとそうなるはずだ。

「ヨッシャアア!!鬼退治ダアッ!!!!」

 突如となりを台風が駆け抜けた。長髪をなびかせて階段を三段飛ばしで駆け上がっていく。

 そいつは扉を開けて屋上へと上がる。俺もそれに続いた。

「今日こそ勝つ!!草加部総司!!!屋上は俺の物だ!!!」

 左手を右肩に置き、右腕をぐるぐる回しながらそいつは叫んだ。

「また来たのか。懲りないな。」

 屋上の向こう側に男が一人立っていた。そいつが首を鳴らしながらこちらへと向かって来る。

 背筋が凍る。夏を迎えた炎天下にも関わらず寒気がする。僕はその場で立っているだけで精一杯だった。

「神崎ひなた。お前は俺に殴られるためにわざわざ学校に来てるのか?」

 草加部と呼ばれた鬼はそいつを神崎ひなたと言った。神崎ひなたも草加部に向かって歩いて行く。

「巫山戯ろよ。俺が最強だってこと今日こそ教えてやるよ。」

 神崎ひなたと草加部総司は拳が届かない間合いで立ち止まる。燦々と太陽が屋上を照らし塩の薫りを含んだ風がこの場を通り抜ける。戦いが始まろうとしていた。


 最初に動いたのは神崎ひなた。左手の目打ち。ジャブに似た動作で左手をスナップさせて指を伸ばして目を叩く。草加部は目を瞑りそれを防ぐ。すきだらけの草加部に神崎は必殺を放った。

 草加部のそれは左鈎突きから始まった。要するに左ボディ。そこから始まった目にも留まらぬ連撃をもらい続けるも、草加部は一向に怯まず立っている。

 草加部は右拳を後ろに引いてタメを作る。神崎の打撃をものともしない、という形容そのままに右拳で殴った。神崎もそれを読んでいたのか屈んでかわした。そして、草加部の右腕を掴んで投げた。

 一本背負いのようなそれは草加部を頭から落とした。下は当然コンクリート。死んでいてもおかしくない。

「今日こそ勝った!!屋上は俺のものだ!」

 神崎は吠えた。

「懲りないな。神崎ひなた。」

 勝ち名乗りを上げて背を向けていた神崎を尻目に草加部は立ち上がる。頭からだらだらと血を流しながら、右拳を引いて、真っ直ぐ神崎ひなたを殴った。

 神崎ひなたは吹っ飛んだ。屋上を囲っていたフェンスを突き破り下へと落ちていく。

「お前もやるのか。」

 草加部は僕に向かってそういった。冗談じゃない。そんな事より落ちていった神崎ひなたが気になった。振り向いて階段を駆け下りる。

 死ぬな。死んでくれるなよ。登校そうそう他人の死に目に会うなんて最悪な展開を望んでいたわけじゃない。生きてろよ、バカ野郎。

 一階へとたどり着き外へと出る。神崎が落ちたと思しき場所へと駆ける。

「いってぇぇ!!また負けた!」

 神崎ひなたは叫びながら頭をかいていた。

「そういや、お前誰なの?」

 と、僕に言ってきた。

「僕は1年2組の稲荷紺。」

「何だ。同学年かよ。俺の名前は神崎ひなた。1年3組、神崎流の次期後継者だ。」

 よくわからないことを神崎ひなたはべらべらと喋る。そんな事より聞きたい事があった。

「どうしてあんなバケモノに挑んでんの?」

 僕はそう聞いた。

「だって面白いじゃん。それに男なら最強を目指すのは当たり前だろ。」

 屈託のない笑顔で言った。夏の太陽に引けを取らない眩しさだった。

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稲荷紺のメス堕ちロード あきかん @Gomibako

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