三月二十二日 くまのと贈り物

「【くまの】就役おめでとう」

この日は兄が珍しく長崎を離れて、横須賀までやって来ていた。そして、祝いの言葉と共に小ぶりの細長い箱を俺に手渡した。

「ありがとう、開けていい?」

「いいよ」

包装紙を破き箱を開ける。箱の中には明るい黄色のペンが入っていた。箱をポケットに押し込み、キャップを開けるとひし形の尖ったペン先が現れた。

「万年筆だ!」

「これから何かにサインする機会も増えるだろうから」

「【もがみ】、ありがとう!」

兄が自分のために選んでくれたということがなによりも嬉しかった。

「じゃあ、俺まだ訓練あるから戻るね」

「うん、ありがとう。 また、【道】で」

スッと【道】に入る兄を見送る。一緒に就役できなかった歯痒さはこの贈り物で一気に吹き飛んでしまった。

「【もがみ】は青がいいかな……」


 初任給で買うものはもう決まっている。


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