三月二十二日 くまの就役
いかにもめでたそうな紅白の幕、海と空の間の色をした真新しい艦。生憎の空模様は、最新鋭艦の気持ちをそのままに映しているようだった。
「いろいろあったなあ」
目の前の光景を見ながら【タマノ】はのんびりとそんなことを言った。
「そうだね」
俺が同調すれば【タマノ】はうんうんと満足そうに頷き嬉しそうに笑う。
「機嫌、まだ直らんか?」
「ちょっとね」
関係者各位のめでたいようなホッとしたような雰囲気とは裏腹に、俺の気分はそこそこに落ち込んでいた。
「一人で就役させられるとか聞いてないし」
「それもいろいろの一つだ」
諦めなさいと【タマノ】は俺の文句をばっさりと切ってしまった。岸壁で奏でられる軍艦マーチは鼓動のように、進む人は血潮のように真新しい艦に命を吹き込んでいく。
「【くまの】、今日が全ての始まりだ。 気をつけていってらっしゃい」
「……いってきます」
全ての始まりの日
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます