四月一日 くまの曰く
人間が言うには、春は青いらしい。
【道】の中でもよく日の当たる草原に【くまの】が寝転がって春の空を見ていた。寒の戻りとやらで現世にも【道】にも柔らかい陽光に似合わない冷たい風が吹いている。
「一年中このくらいの気温がいいなー」
無防備で仰向けの【くまの】の身体を冷たい風が撫でていく。訓練終わりの火照った体には心地が良いようだ。先日、就役したばかりのこの若い【艦霊】は、色々と自分の思い通りにならないのだと、駄々を捏ねていた。そんな姿を見兼ねて、優しい先輩たちが『動けばマシになる』と組手もろもろに付き合ってくれ現在にいたっている。青空の海に桜に波が揺れる。いつまでも拗ねていても仕方がないのは【くまの】自身も分かっていた。それでも制御しがたいのが青春というものだ。
「俺、弟なのになあ」
「まだ言ってるの?それ」
「あ、兄ちゃん」
「無理して呼ばなくていいよ、【くまの】」
「はーい、【もがみ】どうしたの?」
「もうすぐ昼ご飯なんだけど」
「分かった」
【くまの】は体を起こして【もがみ】の横に立つ。立ち姿のよく似た兄弟は並んで歩き出す。
「今日はどこまで行ってたの?」
「いつもと同じご近所一周だよ」
「そっか、あ、【ぶんご】」
「あの人、本当に構いたがりだよな」
「【みやじま】が『諦めて慣れろ』って言ってた」
「俺、無理かも」
「玉野生まれの俺でもちょっと食傷気味」
「何それ、怖いんだけど」
もうあと何メートルもない所にある屋敷の前で、煙草を吸う【母艦】への感想を言い合えば自然と笑みがこぼれる。
「ねえ【もがみ】」
「なに【くまの】」
「俺、待ってるから」
「そっか」
FFM1もがみとFFM2くまのは双子の姉妹艦である。
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