episode.1 親友は金持ちボッチ



「予想外ですわ~」

《……》

「まさか予約期間忘れてるとは……予想外ですわ~」

《……懺悔はそれだけですか?》

「すんませんでしたァ!」



 日は変わり、此処はとある平屋の縁側。

 The 日本家屋と言って差し支えないほど見事な家には、

 スマホを耳に当てながら何も無い空間に謝り倒す少女がいた。


 少女というより女性と言ったほうが正しいだろう。

 女性の中では高い部類の身長にメリハリの付いた体型。

 身体の上下を赤いジャージで覆っているのが少々残念だが、

 少し癖っ毛になっている真っ黒な長髪と吊り目はさながら狼を思わせる雰囲気を醸し出している。


 彼女の名は立花 椿。

 月草とはもう十年来の親友であるが、今日の戦犯は彼女である。



《嫌な予感はしてたんですよね、椿ちゃんは大分適当ですから……》

「ハイ……スイマセン……」

《まあ、今回は大丈夫ですよ。お父様がなんとかしてくれましたから》

「親父さんが?」



 椿は月草の父親の顔を思い出す。

 何度も会ったことはあるし、下手な親戚よりも知った仲ではある人。

 かなり厳格だが、同時に子煩悩な父親だ。

 初対面の時はそのギャップに驚かされた記憶がある。



《あの後、夕食の時間にVRMMOの話をしたんですよ。予約できなかった件も含めて》

「ああ……親父さん驚いたろ?」

《それはもう。椿ちゃんから誘われたって言えば納得したみたいですけどね》

「まあお前ボッチだもんな」

《ボッチじゃありません……交友関係ならそれなりにあります……!》



 それでも俺含めて数人なんだよなぁ……

 椿はいくつか思い当たる顔を思い出す。

 本人はそれなりにあると言っていたが、大体は遠方で地主やってる家の従姉妹か、何度かパーティーに出た際に知り合った大企業の社長令嬢くらいしか思いつかない。

 俺含めても3人か……と親友の将来が心配になってきた椿だが、そうとも知らず月草は話し続ける。



《話を戻しますね?……で、お父様にその話をしたところ、今日会社の方からご連絡頂きまして》

「会社ァ?」

《ええと……『バーチャルアーツ(株)』ですね。件のVRMMOの開発元です》

「……何だって?」

《だから椿ちゃんが言ってたL…何でしたっけ?あのVRMMOの開発元ですよ》

「LOOな、Life Over Onlineで頭文字取ってLOO」

《それそれ、LOOの会社です。なんでもお父様がバーチャルアーツの出資者の1人だったみたいで……》

「あー、なるほど。そういう繋がりか」

《まだ株主優待枠で予約可能ですよ〜とご連絡頂いたので、先程予約したんですよ》



 そういえば月草の家大分上流階級なの忘れてたな……と独言る椿。

 椿の家も古くから続く家系だが、財力と投資の面では三原家には遠く及ばない。月草本人は贅沢をするような趣味は無いので忘れがちだったが、こういう時は金の力様々だな……と思える。



「でも、これで何も問題無しだな!」

《そうですね……一応安全の為にあのコクーン型の点検もお願いしましたし。あとは発売日を待つだけですね!》



 一安心したところで、2人はLOOの公式サイトを眺めていた。



《なんか情報量が多いんですけど……》

「LOOはスキル制だからなぁ。自由度高いのはいいけど初心者には辛いわな」

《スキル制……?》

「まあ種族スキルは固定っぽいし、職業スキルの取り方間違えなきゃ大丈夫だろ」

《種族スキル……職業スキル……?》



 椿は他のVRMMOをプレイしたことがあるからかサイトの情報量にも慣れたものだが、

 VRMMO初心者の月草は何が何だかチンプンカンプンだ。



「スキルっていうゲーム内技能を育てていくゲームシステムがスキル制。スキルはスキルポイントを消費して覚えられるのさ」

《技能……この『近接戦闘』とか『早足』とかですか?》

「それそれ。例えば『近接戦闘』なら殴る蹴るとか近接武器の攻撃が強くなる。『早足』なら移動速度が速くなる」



 スキルの分類上『近接戦闘』は戦闘スキル群、『早足』は補助スキル群に属する。



「他にも『鍛治』とか『調薬』なんかもあるぞ。これは生産スキル群だな」

《選びきれないくらいありそうなんですが……》

「まあ大丈夫だろ。キャラクター作る時に説明はされるだろうし」



 初心者向けにはサポートAIの補助も付くはずだ。その辺りはサービスもしっかりしている。



《不安ですね……》

「どうせならキャラクター作る時はネット共有しとくか?丁度LOOも共有対応してるし」

《いいんですか!?》

「誘ったのは俺だしな。教えながらやった方が早そうだし」



 確か月草のコクーン型VR機器もネット共有はできたはずだ。VRの初期設定した時にヘルプでネット共有して直に教えたこともある。



《是非お願いします!正直キャラクター作るだけで1日使いそうですし……》

「はいよー、お安い御用さ」

《ありがとう、椿ちゃん!》



 なんだかんだ、仲の良い2人であった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る