第5話 ボス戦

深夜2時


山田君を見失わないように、

原付バイクで距離を取って尾行を始めた。


山田君が行く先々で、化け物が現れた。

山田君は、どこに化け物が現れるか知っているみたいだ。


それにしても、山田君は強い。

化け物の大きさや出現頻度は増しているが、

関係なく化け物を瞬殺している。

いつ剣を抜いたかも分からない。



12時間後


「はぁ、はぁ」


いつまで続くの。

山田君は、休憩も食事もせず、ひたすら淡々と

化け物を退治しては移動するということを繰り返している。


一日中動き回って、

息一つ乱れないなんて。

やはり、山田君は普通の人間ではない。



広大なグラウンドに来た時だった。

山田君の目の前に、今までのとは

比べ物にならない大きさの化け物が現れた。

グラウンドを埋めつくす程の大きさで、

ゼリー状の物体から複数の手が伸びて、

山田君への攻撃を始めた。


いくら山田君が強くても、こんなの1人で倒せるの?

無理だよ、死んじゃうって。



5分後


何コレ。


山田君は攻撃を簡単に避けて、

右手で持った剣で化け物を削り、

削った部分を左手から出る魔法的なやつで消滅させている。


避けて切って燃やす、避けて切って燃やす……


3拍子のリズムで淡々と化け物を削っている。

強さのレベルが違い過ぎる。

勝てる見込みがない戦い続ける化け物が、

段々かわいそうに思えてきた。



30分後


……おなか減ってきたし、コンビニ行こうかな。



1時間後


グラウンドの端で横になって休みながら、

山田君を見守っている私に、

知らないおばさんが話しかけてきた。


「あれは何をしてるの?映画の撮影?」


「さぁ、分かんないです」


「ずいぶん迫力あるわね」


「そうですね」


「……あなたは、なんでこんなところでビールを飲んでるの?」


「消化試合なんか、ビール飲まなきゃ見てらんないですよ」

「同じことをずっと続けてるし、新たな展開とかもないですし」


「よく分からないけど、それなら、帰ればいいんじゃ……」


「帰るのは違うじゃないですか!」

「体張って、必死に戦ってるんですよ!」


「そ、そうだんだ」


「あと、これはビールじゃなくて、ノンアルですから」


「……」



1時間半後


「ZZZ」



2時間後


ピロリピロリピロリ

「んんっ……はぁ~~」

私はスマホのアラームで起きた。


化け物は、山田君の半分ぐらいの大きさになっていた。

山田君は剣を鞘に戻し、敵に近づきながら、

ズボンのポケットから何かを取り出そうとした時だった。


足元の石につまずいて、派手に転んだ。


ボコられ続けた化け物は、

ここぞといわんばかりに、

禍々しいオーラを放ち始め、

何かを仕掛けようとしていた。


なに油断してんのよ!!!


私は原付に飛び乗り、アクセル全開で化け物に突っ込んだ。


原付はゼリー状の化け物にめり込み、その反動で私は、

前方に吹っ飛び、全身を地面に打ち付けた。


「くっ………」

痛い、痛い、痛い。

普通の痛みじゃない。

死ぬかも。

化け物強いじゃん。

てことは、山田君は半端ないってことだ。

なのに、なんで転ぶのよ。

あー、段々ボーっとしてきた。

本当にヤバい。


……山田君は……大丈夫……かな。


暗闇の中に、意識が吸い込まれそうになった時、

遠くの方から、かすかに聴こえた。


「もう大丈夫です」


初めて聴く声だった。



あれっ、体が動く。

痛みもない。

なんで?


振り向くと、山田君がいた。

山田君が持つ小さな箱に、

化け物が吸い込まれていった。


「山田……君」


「篠宮さん!!」


山田君は私のそばに来て、寄り添ってくれた。


「私……生きてる」


「回復魔法が間に合いました」


「そう……なんだ」


「なんであんな危険なことを……」


「……分かんない」


「俺のせいで……すみません」


「違うよ、私が勝手に動いただけだから」


「もうあんな危険なことはしないでください」

「あれぐらいの敵なら、1万発喰らっても

 蚊に刺されたぐらいのダメージしかないんで」

 

「先に言ってよ」


「すみません」


「山田君は強いんだね」


「そんなことは……」


「……ちょっと聴いていいかな?」


「なんですか」


「なんか、もう、普通にしゃべってるよね」


「あっ!」



山田君は、右手で口を押えた。

青ざめた表情をしている。


「なんで?」


「……」


私は山田君を見るが、山田君は下を向いている。

山田君の返答を待ったが、山田君がしゃべる様子はない。


再び私から声をかけようとした時、

山田君の後方に、スーツ姿で眼鏡をかけた、

いかにも仕事ができそうな、長身の美女が現れた。

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