第4話 苛立ち

夜が明け、窓から光が差し込んできた。


ボーっとしたまま1階に降りると、

山田君はすでに、朝食を用意して座っていた。


2人で静かに朝食をとった。


私は、山田君に話しかけた。


「昨日は……助けてくれたってことだよね」


「……」


「ありがとう」


「……」


「あの化け物は何だったの?」


「……」


「あなたは何者なの?」


「……」


やっぱり、何も話してくれない。


そういえば、ユリが言ってたな。

山田君は話さないんじゃなくて、

話せないかもしれないって。


「これから、私が質問することに、

 首を縦か横に振って、返事をしてほしいの」


「……」


「山田君は、この世界の人間なの?」


反応はない。


「あの化け物を倒すために、異世界から来たとか?」


反応はない。


「話さないのは、異世界に行くときのルールなの?」


山田君は、何も言わないし、反応もしない。


「なんで、何も教えてくれないの!」

「あんなことがあったんだよ!」


「……」


「私がこのことを誰かにバラすと思ってるの」

「そんなことしないよ」

「山田君が困るようなことはしない」


「……」


「教えてほしい」


「……」


「私は山田君に助けられてばかりだから」

「私にできることがあれば、なんでもするよ」


山田君は何も反応しなかった。


「……もういいよ」


「……」


私は、山田君を残して、職場に向かった。


助けてくれたのに、

感謝してるのに、

すごくイライラする。



その後、私は出勤したが、

山田君は会社に来なかった。


店長から山田君の事を聴かれた。


「篠宮さん、山田君は休み?連絡はあった?」


「……ないです」


「無断欠勤かぁ」

「無断欠勤はダメだよねぇ」


「そうですね」


「でも、そんなことする子だとは思わなかったんだけどね」

「何かあったのかなぁ」

「篠宮さん、何か知ってる?」


「なんで私に聴くんですか?」


「いやぁ、教育係お願いしてたし、

 仲良さそうだからね」


「そんなことは……」


「何かあったの?」


「……別に、何もないです」


「困ったなぁ」

「山田君はうちのエースなのにさ」

「明日からまた来てくれるかな」


「別にいなくたって……」

私はボソっと言った。


「何か言った?」


「いえ、何でもないです」



その後、仕事を始めたのだが……


「えーっ!!山田君、休みなんですか」


「どうしよう、きょう搬入の荷物が多いのに」


「パソコンの調子が悪いから、山田君に見てもらおうと思ってたのにさ」


パートの人たちは、山田君がいないことに困惑している。


なんなの。

みんな山田君、山田君って。

最初はみんな、怖がってたくせに。


私はパートの人たちの質問攻めにあった。

「篠宮さん、なんで山田君は休みなんですか?」


「お金ないみたいだったし、山田君は大丈夫なんですか?」


「山田君がいないと、仕事になんないよ」

「篠宮さん、どうしようか」


バン!!!


私は目の前の机を両手で叩いた。


「いいかげんにしてください!」

「今まで山田君がいなくても、なんとかやってきたじゃないですか!」


「篠宮さん?」


パートの人たちは、

驚いた顔で私を見ている。


「すみません、大きな声を出して」

「私が何とかしますんで、皆さんは通常業務をお願いします」


その後、普段の仕事に合わせて、山田君の仕事を行った。

当然残業となり、1人で店を閉めた。



すっごい疲れた。

自分だけでやらずに、みんなにお願いすればよかった。

でも、それはしたくなかった。

……なんで、イライラするんだろう。



家に帰ると、慌てた様子の母さんから、声をかけられた。

「ヒカリ!大丈夫だった?」


「何のこと?」


「ニュースは見てないの?」


そう言って母さんはテレビをつけ、

私にニュースを見せた。


「今朝から、市内で目撃されている謎の生物ですが、

その後も目撃情報が届いています。

 謎の生物について、現在調査中で、

詳しいことは分かっておりません。

 今のところ、奇跡的に被害は出ていません。

 市民の方から届いた映像がこちらです」


テレビの画面には、昨日のゴブリンみたいなやつが映っている。


「ヒカリ、あれって山田君じゃないの!」


視聴者からの動画には、

ゴブリンと一緒に、山田君が映っていた。


今日会社に来なかったのは、あの化け物を倒すためだと思う。

誰も知らない化け物の事を、山田君は知っていた。

やっぱり山田君は、この世界の人間ではないのかもしれない。


山田君は、今も戦ってるのかな……


「ヒカリ、山田君は大丈夫かしら」


「たぶん、大丈夫だと思う」


昨日の様子を見ると、山田君は相当強いと思う。

昨日のゴブリンぐらいなら、負けることはないと思うけど……

テレビ画面に映るゴブリンは、昨日のゴブリンより大きいように感じた。


ガチャ


そんな心配をしていると、玄関の戸が開く音がした。


玄関には、山田君と父さんが立っていた。


母さんが2人に声をかける。

「どうしたの2人揃って」


「会社の近くに、たまたま山田君がいたからさ、

 一緒に帰ってきたんだよ」


山田君はうなずいて返事をする。


「よかったぁ」

「心配してたのよ、謎の生物のニュースがあったからさ」


「大丈夫、大丈夫」

「うちには山田君がいるから」

「この体なら、あんな生物の1匹や2匹楽勝でしょ」


父さんは、偉そうに山田君に話しかける。


山田君は、苦笑いをしている。


「じゃあ、みんな揃ったから、夕ご飯にしましょ」


両親と山田君はリビングに移動した。


父さんの会社の近くにいたのは、偶然?

父さんを守るためかもしれない。


私は……



夕食後、私は山田君の部屋を訪ねた。


コンコン


ノックをしたが、山田君の反応はない。


「入るよ」


部屋に入ると、山田君は剣の柄を触っていた。


「……今日もその剣で、化け物を倒したんだ」


「……」


「会社を休んだのは、化け物を倒すためなんだよね」


「……」


「今日のニュースの動画で、

化け物の近くに、山田君がいるのが映ってた」


「……」


「まだ、出会って1か月だけどさ、私は分かるよ」


「……」


「山田君は良いやつだってこと」


「……」


「人のために、自分を犠牲にできるってこと」


「……」


「テレビに映った化け物は、昨日より大きかった」

「もしかして、化け物は段々強くなってるんじゃないのかな」


「……」


「心配なんだよ」

「あんな化け物と戦うなんて」


山田君は下を向いたまま何も反応しない。


私は昨日から疑問に思っていたことを聴いた。


「山田君は、昨日私の部屋に化け物が

 現れることを知ってたよね」


「……」


「これから何が起こるの?」


「……」


「私にできることはないのかな?」


「……」


「私が邪魔なら、そう言ってよ!」

「もう山田君には関わらないからさ」


「……」


「私のことが嫌いなら、嫌いって言いなよ!!」


「……」


山田君は下を向いたまま何も反応しない。



私がイライラしているのは、私のせいだ。


何もできない自分。

頼りにされない自分。

情けない自分。


自分への怒りを山田君にぶつけてるんだ。


私は、山田君の……上司なのに。



私が黙って部屋を出ようとした時だった。


山田君は、私の服の袖をつかんだ。


「えっ」


振り返り、山田君の顔を見た。

山田君は斜め下を向いている。


「山田君?」


「……」


「何でも聴くよ」


「……」


「話してくれなきゃ、分からないよ」


私は袖をつかむ山田君の手首をつかみ、

袖から引き離した。


私は部屋に戻り、ベットで横になった。



山田君が私の袖をつかんだのは、

私に何かを伝えようとしたから。


でも、何も伝えなかった。


私は邪魔なのかもしれない。


これ以上関わるのは、迷惑かもしれない。


それでも、私は……



30分後、山田君の部屋の戸が開く音がした。


窓から外をのぞくと、山田君が家から出る姿が見えた。



私はまた、山田君を尾行することにした。

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