[6章2話-3]:今回も決して甘くない…




「うー、最後にあんなこと言わなくてもぉ~」


 一方のゲートをくぐった茜音も、荷物を再び受け取ると、両手で目のあたりをこすった。


「ここからは一人かぁ……」


 もう一度、チケットとゲートを確認する。


「うん。いつだってわたしは一人だったもん。大丈夫だよぉ」


 次に前を向いたその顔には、もう迷いはない。



 飛行機は羽田を飛び立ち、ほぼ予定通りに青森空港に到着した。


 空港から最初の乗車駅になっている青森駅までは、空港からの路線バスで約35分弱の道のりになる。


 バスに揺られながら、今日の予定を確認する。


 するとスマートフォンの通知エリアにメールのアイコンが表示されている。


「誰だろぉ」


 先ほど空港からは青森空港の到着を知らせるメールは入れてある。


 画面を見ると、佳織からのメールで、菜都実のお店に戻り体制ができたとの連絡と、もう1通、上野を出発してまずは日光に向かったという真弥からのメール。途中で予定を合わせられたらいいですねというメッセージ。


「はうぅ。みんなわたしのこと泣かせたいのかなぁ……」


 再びこみ上げてくるものをなんとか抑え、二人にメールを返しているうちに、バスは駅に到着し、ホームにはすでに列車が待っている。あわただしく乗り込んだ直後にドアが閉まり、その日の旅がスタートした……。





「どうだったぁ?」


 夜も10時半を回り、その日の到達点を予定どおりの釜石と伝えてあった佳織が駅前の旅館を用意しておいてくれた。


 その日の結果をSNSなどに投稿を終え、いろいろな機材の充電をしているところに待機している二人からの電話だ。


「うぅ、疲れたぁ。気仙沼までは行けたんだけどねぇ。最後の方は暗くなっちゃって。でも、駅の雰囲気とかを感じていったけど、やっぱ違うねぇ。釜石まで戻りながら寝ちゃったよぉ」


「山田線でもダメだったか……」


 佳織はいくつかの路線を重要路線と指定してあり、そこを通るときは可能な限り明るいうちに通れるように組んである。


 山田線は山の中を縫うように走る路線で、鉄橋の写真なども多数ネットなどにも掲載されている。三人とも、もしかしたら初日にも可能性があるとみていたため、急遽の途中下車によるスケジュールの遅れが出ても今後の日程でカバーできるようになっていた。


「うん。かなり確率も高いっていうから、ずっと窓際で観ていたんだけどね。どうしてもピンとこなかった。降りたらもう少し分かるのかもしれないけど、なんか違うんだよぉ」


「そうかぁ。残念だなぁ。まぁ、明日も頑張ろう」


「うん。ありがとぉ。明日は宮城県、山形県中心だねぇ」


「疲れると悪いから、おやすみ」


「うん、ありがとぉ。おやすみぃ」



 一人だけの部屋の中が再び静まりかえる。


 ハードな旅とは覚悟していたが、初日からずいぶん疲れた気がする。


 テレビをつけていようとも思ったけれど、時間も遅くなり地方局の番組に切り替わってしまうと、観ていても馴染みがない。翌日の天気予報だけを確認して消してしまった。


「明日も早いからもう寝よぉ」


 明かりを消し布団に潜り込んだ茜音は、旅初日の疲れも吹き出したのか、すぐに深い眠りに落ちていた。


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