[6章2話-2]:初日から泣かせたいのかなぁ…




 朝も早かったため、電車の混雑に巻き込まれることもなく羽田空港に到着する。


 フライト時間までにはまだ時間もあったので、チェックインを済ませ朝食を摂ることにした。


「茜音は機内で食べる時間があるのに悪いね」


「ううん、いいよぉ」


 他の二人よりも軽めにサンドイッチをゆっくりつまんでいる茜音。


「今回で最後かぁ」


「うん、本当に1年間ありがとぉ」


「まだ早いって。予定より早くのいい報告待ってるからね。なんか情報があれば、すぐに送るからさ」


「うん、頑張ってみるよぉ」


 茜音が青森に到着するのはこのあと10時頃になる。それまでに菜都実と佳織は店の仕事をしながらウィンディの一角に陣取り、茜音から送られてくる情報を整理することにしている。そのために、佳織も今日明日は菜都実の部屋に泊まり込むことにしていた。


「茜音、おみやげ持てなくなったら宅急便で送ってな」


「あうぅ、時間あればねぇ。乗り換えの時間が結構あったりするからそのときかなぁ。でも田舎の方に行くと駅前にコンビニがなかったりするよぉ」


「そういうときも気合いだぁ!」


「そんなぁ~~」


 いつの間にか時間も過ぎ、三人はセキュリティゲート前までやってくる。


「あ、そうだ茜音。いつものアプリにメッセージ送っておいたの見てくれる?」


 佳織に言われて、メッセンジャーアプリを立ち上げると、公開されているSNSとは違って、茜音・佳織・菜都実の三人だけのグループトークの中に、ウェブサイトのアドレスが入っていた。


「開いてみて。怪しいサイトじゃないからさ」


 菜都実も一緒になって開いてみると、そこには、今回のコースの時刻表だけでなく、駅の乗り換え、観光案内所や宿泊先の情報と連絡先などが整理されて表示されている。


「急いで作ったからデザインはイマイチだけど、パケットも使わないように最低限のデータで作ったの。それに私の手元ですぐに更新できるから、何か困ったときに開いてみて」


「すげぇ……、いつの間に作ってたんだぁ?」


 まさかの専用ページの用意に菜都実の方が呆れている。


 宿泊先の情報や行き方、乗り換え駅で食事の調達可否まで書いてあるのが、細かいところにも妥協しない佳織らしい。


「あうぅ、ありがとぉ。忙しい中でごめんねぇ。なんとかいい報告ができるように頑張ってみる」


 スマートフォンを操作して、ブラウザのブックマークにすぐに登録した。


「やっぱ、いつもより装備が重そうだわな」


「なんかあったら、すぐに連絡してちょうだい。行けるところなら次の日には駆けつけてあげるから。あと、美弥さんと真弥ちゃんが東北に旅行に行くって昨日言ってた。今日上野から出発するみたいだから、途中で会うかもね」


 京都で会った葉月美弥と真弥姉妹はその後も店にやってきたりと親睦を深めている。佳織の情報で茜音が北から攻めると聞き、二人は南側からスタートするという。


「そうなんだぁ。二人とも春に受験終わってたもんね。負けてられないね」


 搭乗開始の案内が流れる。茜音は再び荷物を確認すると、


「じゃぁ、いってきまぁす」


「茜音!」


「ん?」


 菜都実の声にもう一度振り返ると、彼女は握った手の親指を上に付きだした。


「グッドラック」


「うん、じゃぁね」


 ゲートの中に小さな姿が消えると、残った二人は大きなため息を付いた。


「だめだぁ、涙こらえるのやっとだった」


「なんか、心配よね……。あとは祈るだけ……か」


「おし、美弥さんたちに茜音の出発だけ連絡して、任務に就きますかぁ」


 佳織もそれにうなずき、二人は空港をあとにした。

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