第 二 十 八 話
僕達は坂下裕人にあり合わせの適当な服を着せて、僕達は坂下裕人にあり合わせの適当な服を着せて、パイプの椅子で雑に作り上げた面談室で話を聞くことにしました。
「時に坂下裕人よ、一体あなたにはどれぐらいの再現性があるのかな」
「再現性?ああ、オリジナルの私と今の私にどれぐらいの差異があるのかという話か。それははっきり言ってよくわからないな」
彼は確かに迷いのない言葉ではっきりと言ってみせました。
「まあ、全く一緒とはいかないまでも、限りなく本物と似ているんじゃないか?彼女のために身を投げたのもほんのりと覚えている」
奴は生まれたばかりとは思えないほど、流暢に話をしました。僕達が当時の坂下としっかりとした接点が無く、本人との比較ができないのが惜しいですが「きっとうまくいっている」のでしょう。そう信じるしかありません。
「彼女……そう、そうだ三佳村さんだ。ここには居ないが、あの人も僕達の協力者だ。つまりあの人があんたの母なわけだけど、三佳村さんはあんたに作られた。両方が親で子でもある。奇妙なことだが」
僕がことの顛末を説明していると奴は不思議そうに聞きました。
「ここには居ない?なんで?」
「それは……平たく言えば喧嘩だよ」
ああ、そう、と坂下裕人は素っ気なく言った。「案外、凸凹なチームでも、やろうと思えば人間だって作れてしまえる物なんだな」
坂下は何か封筒のような物を持っていました。小さくて真っ白の、お年玉を入れるような封筒でした。それを坂下はどこからともなく取り出し、僕達に見せつけました。
「何だ、それ」
「私は先ほど生まれたばかりだ。だから私の所持物なんてのは君達からもらったこの服くらいの物で、それ以外の物はここから拝借した物だ。この封筒もしかり」
坂下は観察するようにそれの表裏まじまじと見ました。その際に封筒の裏面がチラリと見え、小さく何か書いてあるのが目に付きました。
「これ今まで気がつかなかったのか?そこの裏に置いてあったんだが。ここは元々私の作り上げた実験場だが、私はこんなの知らないな」
そう言って坂下は後ろに振り返り、大きなフラスコの方を指さしました。
ほらよ、と奴は斗森にその封筒を渡しました。
「お前、これが何か知ってるか?」
そんなことを言われても、僕は何も知りません。「いや」と僕は返します。
「じゃあ、決まりだな。これは彼女が残した物だ」
封筒の裏には丁寧で小さな文字で「悪友たちへ」とだけ書かれています。
「おそらく手紙かなにかだろうな。去り際に置き手紙を置いていくところは、どうやら私に似たらしい」
三佳村さんに聞いていた話よりも坂下はかなりのおしゃべりだな、と僕は思いました。斗森が封筒を開けると中には四つ折りにされた紙が一枚、入っていたのです。急いで紙を開き確認すると斗森は目の色を変えました。「なんだ、何が書いてあった?」
僕が訪ねても、斗森は答えようとはしません。ただ坂下裕人の方を見て、呆然としていました。
「何だよ、じれったいな。見せてみろ」
坂下は斗森に詰め寄り、自分が渡した手紙を奪い返すように取り上げました。そして一通り読んだかと思うと、一つため息をつきました。
「ずっと私は自分のことをやばい科学者だと思っていたが、それは違ったな。やはり人間てのは同じ状況に立たされると似たようなことをする」
そんな不吉な事をほざきながら坂下は僕にその手紙を渡すのです。僕の手は微かに震えていました。そのなんて事ない紙にはきっと、何か逃れることのできない事実が書かれているのでしょう。ゆっくりと、僕は文面に目をやりました。
「まったなんて事をしてくれたんだ」
横目に映った坂下は頭を抱えたいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます