24話「魔女の忠告」エミリーの幼馴染視点・微ざまぁ



――フォンゼル(エミリーの幼馴染)視点――



俺は第二王子の近衛兵をしている。


第二王子殿下のお供として半年間遠征していた。


遠征から帰り寮の自室に戻ると、赤い髪の女がいた。


「あなたは確かエミリーの家の……」


魔女様……と続けようとした言葉を魔女様が遮る。


「あんた、ちょっと顔をかしなさい」


魔女様が鬼の形相で俺を睨み、瞬きをしている間に背後を取られ、首根っこを掴まれた。


蛇に睨まれた蛙になった気分だった。全身に鳥肌が立つ。


遠征先でグリズリーに遭遇しても、これほどの恐怖は感じなかった。


俺は怒らせてはいけないお方を怒らせてしまったらしい。







一瞬で景色が変わり、自室にいたはずなのに外にいた。


超高速移動? それとも転移の魔法か?


どちらにしても人智を超えている。


よく見るとそこは、見覚えのある場所だった。


赤い薔薇と白い薔薇が咲き乱れるよく手入れされた庭園、エミリーの家の庭だとすぐに分かった。


煮えたぎった大型の釜が天井から連れされいる部屋でなくてよかった……とホット息をつく。


「このヘタレ!」


ホッとしたのもつかの間、魔女様に一括され平手打ちされた。


親父や上官に殴られたことがあるが、そんなものとは比較にならないスピードと威力と攻撃力たった。


避けることもガードすることもできず、数メートル吹っ飛ばされる。


地面に叩きつけられ、頬をこする。口を切ったようで鉄の味がした。


じんじんと痛む頬に手を当て身体を起こす。


「騎士になると言って王都に行って、四年も帰ってこないとか舐めてるの? いくら忙しくても一年に一度ぐらい帰って来れるでしょう?」


魔女様の口調は穏やかだったが目が笑ってなかった。


魔女様からは可視化できるほど、凄まじい怒りのオーラが溢れていた。


背筋がブルリと震える。オークの変異種と遭遇したことがあるが、そのときの千倍恐怖を感じている。


「エミリーのことは遊び? 王都に行って騎士になったから捨てる気?」 


「そんなつもりはありません!」


「ならなんで帰って来ないかったのよ?」


「エミリーは裕福な子爵家の跡取りで、俺は貧しい男爵家の次男。幼馴染とはいえプロポーズするのには敷居が高く、せめて騎士になって手柄を立ててからプロポーズしようと思っていました。エミリーに会うと決心が鈍ってしまうので、それまではエミリーに会わずにいようと、それに手紙は毎月送ってましたし」


「話にならないわね、そんなこと言ってるから他の男にエミリーを奪われるのよ」


「えっ!?」


エミリーが他の男に奪われた?


心臓が嫌な音を立てる、背中を冷たい汗が伝う。


「どういうことですか?」


「カウフマン侯爵がエミリーを嫁にほしいと言ってきたの、もちろん子爵も最初は断ったのわ。でも相手は格上の侯爵家、逆らえなくて結局エミリーは数日前に侯爵家に嫁いで行ったわ」


悲しげな顔で魔女様が言う。


「そんな……」


魔女様から聞かされた事実に驚きを隠せない。目の前が真っ暗になる。俺は今までなんの為に努力してきたんだ。


「裕福な子爵家の容姿が良くて気立ての良い娘に婚約者がいないかったら、格上の貴族から目をつけらるのは当然でしょ? そんなことも考えられなかったの? あんたがエミリーと婚約していれば、エミリーがバカで女好きのくそ侯爵と結婚することはなかったのに……」


「くっ……!」


俺は唇を噛み、やり場のない怒りを地面にぶつけた。地面を殴った手がじんじんと痛む。


「俺が! 俺がもっとしっかりしていれば! 俺がエミリーにプロポーズしていれば……! こんなことには……!」


何度も何度も地面を殴りつける。


手に血が滲んできたがかまわずに地面を叩きつけた。


地面にポツポツと水滴が落ちてきた、自分が泣いているのだと気づいた。


「そんなに悔しいならさっさとプロポーズしなさい、じれったいわね。次にエミリーを傷つけたら、心臓をえぐりだして地獄の番犬の餌にするわよ」


魔女様はそう言って不敵な笑みを浮かべ消えた。


しばらく呆然としていると、後ろから懐かしい声が聞こえた。


「フォンゼル様……?」


振り返ると、最愛の人が立っていた。


「エミリー……どうしてここに?」


涙を拭い、目をごしごしと擦る、どっからどう見てもエミリーだ。


「どうしてと言われましても、自分の家ですから」


「子爵家に私がいたらおかしいですか?」


エミリーが困った顔で言った。


「いやそういう訳ではないのだが、魔女様がエミリーは侯爵家に嫁いだと……」


「確かに侯爵家から婚姻の申し入れがありました、ですが魔女様が侯爵家に乗り込んでそのお話を白紙に戻してくださったのです」


「えっ……?」


「フォンゼル様こそなぜここに? 第二王子殿下の近衛兵になられたのでは?」


「私はその……魔女様に連れて来られて」


「まぁそうでしたの」


どうやら魔女様にいっぱい食わされたようだ。エミリーが誰かのものになってないと分かりホッと息をつく。


「大変フォンゼル様、手から血が……早く手当を」


ホッとしたのと同時に、エミリーを失いたくないという思いにかられる。二度とエミリーを失う後悔を味わいたくない。


これからはエミリーに辛い思いをさせない。


「待って、待ってくれ……! 俺は君に伝えたい事があるんだ!」


「伝えたいことですか?」


エミリーがキョトンとした顔で俺を見る。


「四年もほっといてごめん、侯爵家に付け入られる隙を与えたのは俺だ!」


エミリーの手を握り、エミリーの顔を真っ直ぐに見つめる。


「フォンゼル様……?」


「エミリー・エンデ、幼いときから君が好きだった、心から愛している俺と結婚して下さい」


ひざまずいてプロポーズした。


エミリーは頬を赤く染め


「はい、喜んで」


と言ってハニカんだ。



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