25話「あと百年くらいはこのままで」最終話
――魔女視点――
フォンゼル・オイラー、男爵家の次男で、文武両道に優れた美男子。エミリーの幼馴染、二十二歳。
時折【頭がいいけど馬鹿】と表現される人間がいる。
学校などの成績は良くても現実が見えてなかったり、行動が浅はかだったりする人間に使われる。フォンゼルもその類いだ。
エミリーとフォンゼルは幼い頃から仲良しで年頃になってからは、互いに惹かれ合っていた。
フォンゼルは学園を優秀な成績で卒業した。そのままエミリーにプロポーズしてエミリーが学園を卒業したら、結婚し子爵家に婿入りするものだと誰もが思っていた。
フォンゼルは何をとちくるったのか「王都に行って騎士になって手柄を立ててくる、それまで待っていて欲しい」と言い残し王都に行ってしまった。
フォンゼルは貧乏男爵家の次男というのがコンプレックスだったらしい。
騎士になるのは結構だが、その前にせめてエミリーと婚約していけ。
残されたエミリーの気持ちも考えろ。
フォンゼルは優秀で二年で第二王子の近衛隊に入り、更にその二年後、遠征先でグリズリーの変異種から第二王子を守るという手柄を立てた。
しかしその時にはすでにエミリーと侯爵との婚姻の話はまとまっていた。
私がいなかったら、エミリーはアホ侯爵の嫁になっていた。
本当にフォンゼルは腹が立つ男だ。
エミリーの愛する男だから、八つ裂きにもできない。
軽〜〜く、軽〜〜く、ケーキに苺を乗せるときぐらい力を抜いて、平手打ちした。
ひっぱたくだけで許してやるつもりだったが、やはり腹の虫が収まらない。
後で剣の稽古と称してボコボコにしてやる。
フォンゼルはエミリーにプロポーズし、二人は結婚した。
フォンゼルは騎士を辞め、子爵家の婿養子に入った。
やれやれこれでやっと肩の荷を下ろせる。
子爵から領地経営を学び、子爵のサポートをしている。
フォンゼルは学園での成績が優秀だったから、子爵家の仕事もすぐに覚えるだろう。
フォンゼルはエミリーの側にいてエミリーの心の支えになってやればいいのよ。
敵をぶっ倒す強さは私が持ってるから、あんたはエミリーの心の支えになってあげなさい。
そっちは私では役不足みたいだから。
エミリーを泣かすんじゃないわよ、もし泣かせたらたたじゃおかないんだからね。
落ち着いたころ、フォンゼルになぜ騎士になりたかったのか聞いてみた。
数年前、幼いエミリーとフォンゼルの目の前で、私がキメラを退治したことがあった……らしい。
そのときエミリーが「魔女様、素敵、かっこいい!」と私をべた褒めし「大きくなったら魔女様みたいな強い人のお嫁さんになる!」と言った……らしいなのだ。(私は全く覚えていないのだが)
その時フォンゼルは既にエミリーが好きだった。
幼いフォンゼルは「強くならなければエミリーにプロポーズできない!」と思い込み、その日から騎士を志したのだとか。
その間にエミリーが他の男と結婚してしまったのでは、本末転倒だろう。
あれ待って、もしかしてフォンゼルが騎士になる遠因を作ったのは私??
数年後、エミリーとフォンゼルの間に女の子が生まれ、子爵家は賑やかになった。
さらにその翌年男の子が生まれ、子爵家はますます賑やかになった。
私は屋根部屋で、エミリーの淹れてくれたお茶を飲みながら、エミリーの焼いてくれたアーモンドクッキーを摘んでいる。
エミリーは娘にもクッキーの焼き方を教えると楽しそうに話していた。他の焼き菓子の作り方も徐々に伝授するらしい。
エミリーの作ったクッキーに胃袋を掴まれた身としては、有り難い話だ。
エミリーの娘が子爵家を継ぐのなら、あと百年ぐらいこの地に留まって、子爵家の為に(時折)働いてもいいかもしれない。
――終わり――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます