第114話 持つべきは友

 城の中の銃士隊詰所に入ると、皆がぼろぼろにされた羽根帽子を見た。

「どうしたんだ、それ」

 と、ダミアンは言った。

「ちょっとモルガン率いる親衛隊とやりあってしまって……」

 ごめん、と、俺は言った。

「シャルルの所為じゃないだろう」

 マウロが慰めの言葉をくれる。なんだか嬉しい。

「あんまり親に頼むのは嫌だけど……ボクの家にある帽子に同じ店の物があったと思うから、それを持ってくるよ」

 フランシスが俺の肩を叩いた。男として情けないが、それに頼ろう。

「ありがとう、フランシス」

 すると彼はうっとりした声で、

「シャルルが……シャルルがボクを頼ってくれる……」

 ぶつぶつとなにか言っている。

「いや、悪いのはモルガンだ。王に進言すべきだ」

 ディディエが言葉を継ぐ。

「王に言うべきだ!」

 と、シモンも賛同した。

 その時だった。

「その話、聞かせて貰ったわ」

 詰所の扉を逆光で影しか見えないが、声を聞けばわかる。

「姫様……」

「久しぶりね、シャルル」アイリスは、俺の手を取った。そうして銃士隊の面々を見渡し、「親衛隊の素行の悪さにはお父様も困惑しています。クレチアンにも言ってはいますが、全く動く気はないようで……」

 と、アイリスは言葉を濁す。

「そうなのですね」

 俺が言うと、

「ごめんなさい、シャルル。折角の帽子を」

 アイリスはかろうじて繋がっている帽子の羽根部分をつまみ上げ、悲し気な声を出した。

 アイリスにこんな声を出させるなど、親衛隊許すまじ。

「じゃあ、ボクはちょっと実家から帽子を持ってくるよ!」

 銃士隊の中に広まった複雑な想いを打ち消すように、フランシスが声を張り上げた。

「大丈夫なのか?」

「親とは喧嘩なんてしないから大丈夫だよ! それに今の時間なら両親とも家にいないと思うし。じゃ、行ってきまーす!」

「気をつけろよー」

 勢い良く飛び出して行ったフランシスに、皆が声をかけた。

「本当にごめんなさい」

 フランシスが出ていったあと、アイリスは皆に頭を下げた。

「ひ、姫様が頭を下げられるほどの事ではありません」

 慌てたのはオリヴィエだ。こんなテンパってる隊長は初めて見る。

「実行犯はモルガンです。それに、同じ城を護ると言う肩書きであるのに、親衛隊とこうした対立を繰り返している我々銃士隊にも問題はあります」

 いや、ほぼほぼ一方的に喧嘩をふっ掛けられてばかりだがな。

と、皆で目配せする。

「兎も角、今回の事は一方的な暴力です。私からお父様に必ず進言します。シャルルも来る?」

 え、俺も行くのか? 辺りを見渡しても、皆が哀れな眼差しで見つめるだけだ。

いや、俺にも用事がある。忘れかけていたが、ここにいる必要があるのだ。

「お言葉ありがとうございます。しかし、フランシスが帰って来るまで、俺はここを動けません」

するとアイリスは少しむくれたように、

「そう、わかったわ」

 と、言って詰所から出ようとした。

 するとオリヴィエが、

「城の入り口くらいまで姫様をお送りしろ。親衛隊がいるかもしれん」

 ダミアン、シモン、行ってこい、と、口速に言った。

「了解、隊長」

「姫様、お城の入り口までお供いたします」

「あ、ありがとう」

 そう言って、三人で詰所を出ていった。

「俺でも良かったのに」

 三人が扉を閉めたあと、俺がぼやく。それにオリヴィエから、

「ばか、目をつけられてるのはお前だぞ。わざわざ姫様と言う弱点を連れて外に出せるか」

 と、言われてしまった。

「羽根はぼろぼろだが、帽子だけなら直せるかもしれねぇな」

 羽根帽子をまじまじと見ながら、マウロは呟いた。

「本当か!?」

 と、俺は机を叩く。

「あぁ。俺の恋人が針子なんだ。腕は確かでな、羽根さえあれば、もしかしたからある程度直せるかもしれねぇ」

 頼んでみるよ、と、彼は言った。恋人さん感謝します。俺は頭の中で手を合わせた。

「羽根はどうするんだ?」

 と、ディディエが手を顎にやる。

「フランシスが持ってくるだろう?」

 にやり、とマウロは口角を引き上げた。むしり取るつもりなんですか。

「まぁ、羽根を買えるくらいの金はまだ余ってるがな」

 皆からの寄付金を入れた袋を覗き見、オリヴィエは続けた。

「それじゃあ、フランシスの帰りを待って羽根の買い出しに行くか」

 と、マウロが言った。待って、話が飲み込めない。

「要するに、俺は二つも帽子を貰えるって事か?」

 俺は震える声で言った。

「あぁ。そうだな」

 良かったじゃないかと、ディディエに肩を抱かれた。

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