第101話 懐かしい面々

 馬車は音を立てて進み、ベルヌール街へと至る。ここまで来れば、王宮は目と鼻の先だ。やがて、馬車は止まり、オリヴィエが御者席から降りたのがわかった。

 彼は馬車を降りたアイリスに跪き、

「お帰りなさいませ、姫様」

 と、改めて言った。

「旅の供をありがとう、オリヴィエ」アイリスは降りてきた俺たちを見、「フランシス、マウロ、そうして、シャルルも」

「ありがたいお言葉感謝いたします」

 俺たちは声を揃えて言った。

「兎に角城に入りましょう」

 アイリスは前を向く。

「は!」

 彼女を先頭に、門の前に出る。その姿に、門番は慌てた様子で槍を持つ手を震わせ、言った。

「こ、これはアイリス姫! お帰りになられたのですね!」

「えぇ、ジャック。ただいま」

 ジャックと呼ばれた門番は、名を呼ばれた事に喜び、今にも倒れそうだ。

「ただいま王様とお妃様宛に伝令をいたします。しばしお待ちを……」

「そんな事しなくても良いわ。私が直接行ってお父様やお母様をおどろかせてやるのよ。さ、行きましょう?」

 と、門番の止めを聞かずに中に入っていく。おいおいやんちゃになったもんだな。

 と、言うか俺たちも王の間に入って良いのか!?

「姫様ボクたちと一緒に王様に逢うつもりだよ……」

 フランシスが耳打ちする。

 しかしそれは、あらわれた従者によって阻まれてしまう事になる。

 ジャックの手によって扉が開かれると、最初にあった髭がくるりと円を描いている従者が慌てて駆けてきた。

「門番から連絡がありました。お帰りなさいませ」

「ありがとう」

 アイリスがそのまま通り過ぎようとすると、

「ここからは庶民は入れません。大人しく詰所で待っていて下さい」

 と、言われてしまった。

「なぜ? 彼らは一緒に旅をしてきた仲なのよ?」

 アイリスが首を傾げる。

「しかし姫様。庶民は王の許可があって初めて王の間に入る事ができるのです」

 わかってください、と、従者は続けた。

「……わかったわ」アイリスは俺たちの方を振り向き、「あとで伝令を出します。それまでは待っていて」

 と、言った。

「わかりました」

 言葉を継いだのはオリヴィエだった。恐らく旅の始めと同じように、エタンあたりが酒場で飲んでいる俺たちにそれを伝えるのだろう。

「詰所に戻る?」

 と、フランシスが言う。

「そうだな」

 マウロは答えた。

 門番からかの従者に伝わっていると言う事は、銃士隊の詰所にも伝わっている事だろう。兎も角、詰所に戻る運びになった。

 オリヴィエを先頭にして、城をあとにする。あとにすると行っても、城の中に詰所は存在する。なので、王宮から出る事はないのだ。

 木造の詰所まで辿り着くと、オリヴィエはノックをせずに扉を開けた。

「ただいま帰ったぞ」

「隊長!?」

 オリヴィエの言葉に、ほとんどの銃士が振り向く。あれ、伝わってなかった?

「お帰りなさい!」

「生きて帰ってこられてなによりです!」

「祝杯をあげましょう!」

 うわぁ、皆飲む気満々だ。

「ちょっと待て。俺たちは今伝令を待つ身なのだ」

 オリヴィエが盛り上がる皆を止めに入った。そんな時に、決まってあらわれるやつがいる。

「ご主人、ご主人」袖を引っ張られ、俺は振り向いた。「お帰りなさいませ。お土産ありがとうございます」

「エタン」

 こいつストーカーか。

「オリヴィエ様が御者を務めている馬車を見かけましてね。そろそろ帰ってこられるのかと思って、あらわれた次第ですよ。伝令は受けたらすぐにお伝えに上がりますので、飲んできてくださいよ」

「わかった。ありがとう。あとで葡萄酒の一瓶でも買ってやろう」

 するとエタンは、

「あああ、ありがたき幸せでございます。あっしエタン、今までの猫生の中で一番幸せな一言です」

 と、うっとりと言った。

「よし、行くか」

 と、オリヴィエは言った。

「行ってらっしゃいませー!」

 エタンの声を背に、俺たちは酒場へと飲みに出かけた。

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