第37話 小悪魔の魔の手

「綾乃さん、あれ……」荷物を指さす。


「あ〜届いたんだ、よかった」駈寄って荷物の数を確かめている。


「あのう、宅急便じゃなくて、引っ越し便だったんですけど?」


「あっそう、安い方がいいと思ってそれにしたんだけど、何かまずかった?」


「いえ……別に……」僕が何を言っても動じないことを無言で悟った。


「少し開けて整理しなくちゃあね、でもこれは先に開けて……」大きなダンボール箱を開けている。


和室に広げると圧縮された布団だった。空気が入ると柔らかそうな布団が二組出来上がる。


「これから寒くなるから寝袋じゃ大変かなって思ったの、こっちが新さんの分ね」


「僕の布団もあるんですか?」驚いて固まる。


「もちろんよ、それとも一組で一緒に寝る方がよかった?」口角を上げた。


「何言ってんですか、一緒に寝たりしません!」う〜もて遊ばれてる気がする………


「そう残念ね、二人の方が暖かいのに」


「そういう問題じゃないでしょう?」あきれ果てる。


 綾乃さんは一組の布団をリビングの畳へ持ってきた。


「新さんが風邪ひいたらこまるから、これで寝てくださいね」


「ありがとうございます、自分で買おうと思っていたんですけどね」


「そう、私って気がきくでしょう?」


「はい……そのようですね……」ダメだ〜、太刀打ち出来ない…………


「じゃあお礼にキスしてくれてもいいのよ」口をとがらせる。


「…………」僕の頭から湯気が上がって『ピー』と音がしている気がした。


赤くなった僕を見て笑い出すと「ごめんなさい冗談よ」わざと目を泳がせた。


「僕は綾乃さんの手のひらで、いいように転がされている気がします」不服そうに綾乃さんを見る。


「いやですか?」


「いやじゃないけど、なんか割り切れない気持ちです」


「そう、いやじゃないならこのままでいいですね」嬉しそうに微笑んだ。


内心ではまた二人の生活が始まると思うとうれしかった。

もし自分にしっぽがあったら、きっとちぎれるくらい振ってるだろうと想像した。

そして、しっぽがなくて本当によかったと思い胸を撫で下ろす。


綾乃さんは夕食を作りにキッチンへと行った。

僕は新しい布団に横になってみる、ふかふかと気持ちがいい。

思いきり背伸びをして深呼吸をすると、キッチンからいつの間にか綾乃さんがのぞいている。


「どお、気に入った?」優しそうな笑顔でみている。


「はい……とっても」あわてて起きて布団の上に正座する。


「よかった」にこにことキッンへ戻って行った。


僕は「ふー」っとため息をついて、額にかいた汗を徐に拭く。


外でフクロウが「ホーッ」と鳴いた。

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