第36話 日々仕掛けられる恋の罠

翌朝綾乃さんは動きやすい服装で、エプロンとバッグを抱えてアルバイトへ出かけた。


「新さん荷物が届いたらよろしくね」そう言い残して坂道を元気に駆け上がっていった。


遅く起きた僕は朝ご飯と昼ごはんまで用意されていることに驚く、しかしなんとなくほっとしている自分もいる。


先輩のメールを開き、送られてきた資料に目を通す。データ入力が少なくてごめんと書かれてあった。

午後になると一台の幌をつけた軽トラックが下りてくる。


「こんにちは、引っ越しお任せ便です、神崎綾乃さんのお宅ですよね」


「えっ、引っ越し?……はいここで間違いないですけど」


「じゃあさっそく降ろしますね」そう言うと助手と二人で次々に荷物をリビングへ運び込んでいる。


「宅急便と言ったのに引っ越し便じゃあないか!」呆れながら荷物を見て軽いため息を漏らす。


 夕方になると綾乃さんはお土産をもってかえってきた。


「これ角煮バーガー、とっても美味しいのよ」


渡された中華風のバーガーを食べながら聞いた。


「仕事はどうだった?」


「大丈夫、なんとかなりそうよ」


「ふーん、それは良かったね……バーガーうまいね」


「そうなの美味しいのよ、コーヒー入れるね」


「ありがとう」


「千草さんと色々話しちゃった」


「えっ何を」


「新さんのこと、三つの約束でおしかけていることとか」


「えっそんなことまで話したの?」


「新さんはいい別荘を買ったね、とってもいい物件じゃないって言ってたわ」


「ん……どんな意味でいい物件なの?」眉を寄せ綾乃さんを見る。


「さあ……でも綾乃ちゃんも優良物件を見つけたかもって言ってたわ、新さん優良物件だってさ、私もそう思いますって言っちゃった、だから新さん自身を持ってね」


「意味が全く分からないんですけど?」


「いいの、そのうちに分かるから」ニヤリとしている。


無邪気で可愛い少女のような空気を漂わせる………しかし、やはり小悪魔だ。でも何故か少し嬉しい。僕の心の中へドアをこじ開けて入って来た気がする。


「それから新さんに来てもらいたいんだって、お店のパソコンが調子悪らしいの」


「そう、僕で分かることならいいけどね」


「きっと大丈夫よ、明日お昼にきて、WIFIもあるしパソコンを持ってきたらお店でお仕事できるわよ、そしたらずっと一緒に居れるし」少し上目遣いでみる。



「いいけど……」ドキッとして咀嚼していたバーガーを無理に飲み込む。


「お店でバーべキューもやってるんだって、先輩と彼女さんが来たらお店でバーベキューしたらいいんじゃない?」


「そうだね、ここのベランダより全然いいかもね」


「特別サービスも用意してあげるって言ってたわ」


「一体何をどこまで話したの?」


「だからいろんな事よ!」


何故か僕の日常は綾乃さんのペースにズルズルと引きずられていく、音もなく。

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