第34話 君の影でさえ眩しいよ

 次の夜もその次の夜も綾乃さんは帰ってこない。僕はこれが現実なんだと思った。

「どうしよう…………」集落の人達や天空カフェの千草さんにも何と言ったらいいんだろう、そう考えて少し憂鬱になった。


 夕方になってカップラーメンにお湯を注ぎ3分待って食べ始めるとチャイムがなった。


「はーい」ドアを開けると上品で高級そうないかにもお嬢様ファッションの綾乃さんが立っている。


「ただいま」満面の笑みで立っている。


「えっ!……おかえりなさい」僕は音がしそうなくらい瞬きした。


「ごめんね連絡しないで、でも新さんの電話番号を知らなかったし、どうしようもなかったの」


「そうか、知らなかったんだね」


「帰ってこないから心配した?少しは寂しかった?」上目遣いで見ている。


 図星だったが「別に」と答えた、そして何も変わったことはないそぶりをした。

 中へ入ってきた綾乃さんは食べかけのカップ麺を見つけあきれ顔だ。


「なにこれ、ダメじゃないこれで夕食を済まそうとしてたのね」口をへの字にして睨んだ。


「いや……あの……これは……」


「私がいないとダメですねえ……」なぜか嬉しそうにしている。


 コーヒーを二つ入れた。綾乃さんは大きめのバッグを持ってきている。僕がそれを見るとニコニコしながら「他の荷物は宅急便で送ったから明日届くと思うよ」微笑んだ。


「宅急便?」


「うん」


「はい?……えっ……どういうこと?」


「だって帰りたくなるまで居ていいんでしょう?だったら相当長くなるもの、そうなると女は色々と荷物があるのよ」


「相当長くって……」


「いいの!明日から天空カフェでバイトなんだから服とか化粧品とか色々といるのよ、だからバッグに入らなかったものは送ったの!」


 呆然ととしていると、綾乃さんは僕の胸へ飛び込んできた。


「ただいま、これからもよろしくね」顔をうずめたままそういった。


 不覚にもうれしくなって「お帰り」と言ってしまう。


 その言葉を待っていたように綾乃さんは顔を見上げてもう一度恥ずかしそうに「ただいま」そう言って微笑んだ。


 綾乃さんは僕の胸から離れると「どう?」両手を広げて一回りした。


「私が一番お気に入りの服」


 襟にはレースがあしらわれ、胸元にはボタンがならび高級そうなワンピースだ。僕にもしファッションの知識があれば、「おっ、人気の○○ブランドじゃないか!」などと言えるのだろうが「とても綺麗です」それしか言えなかった。


「そう、気に入った?」口角を上げた。


「はい、でもこの里山だとみんなびっくりすると思いますよ」


「みんなはいいの、新さんが気に入ってくれたんなら」


「はい、近寄りがたいほど綺麗です!」


 綾乃さんは溢れそうな笑顔でもう一度回った。

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