第27話 水の生まれる場所
翌朝二人は少し二日酔い気味で顔を合わせた。
「少し飲みすぎましたね」
「そうですね、お風呂も入れなかった」
「そうだ、シャワーを浴びましょう、きのう水がよく出るようになったので、シャワーが思いっきり使えます」
「ほんと、うれしい」
「綾乃さんお先にどうぞ」
「はい。ありがとうございます」バッグをもって下の階へ下りて行った。
30分ほどで戻ってくると「すっごく気持ちよかったです、今までよりきれいな水がたくさん出て快適でした」
「でしょう、それもお祖父ちゃんのおかげなんですよ、後で分かりますけど」
「ふーん」
シャワーの後二人でコーヒーを飲んだ。
「今日、仕事はお休みです、行く所があるので」
「はい、でもどこへ?」
「ちょっとだけキツイ散歩です」
二人は準備して散歩へ出かける。笹原さんの家の前を通って山道を登り、きのう来た水源へと綾乃さんを案内した。
「何ここ!すごい綺麗、アニメに出てきそう」
「ほら、ここが水の生まれるところだよ」そういってミズゴケの方を指さす。
「ここで水が生まれているのね……」綾乃さんは言葉を失ったように見入った。
「とっても神聖な場所に思えるんだよね」僕も思わず見入った。
「お祖父ちゃんがここから水を引いてくれてるんだよ」
「そうなんだ、なんだか命を毎日分けてもらっているような気になるね」綾乃さんはたまっている水に手を入れ、すくって少し飲んでいる。
「冷たくて美味しい」
「真一お祖父ちゃんは、綾乃さんをここに連れてきたがってたそうだよ」
「そうなんだ……お祖父ちゃんありがとう、来れてとっても嬉しい」目を潤ませると僕の胸に顔をうずめた。
「私、生まれてきてよかった」僕の胸の中で漏らしたた。僕は優しく綾乃さんの背中パタパタと優しくあやした。
その日から別荘には多くの来客が続く。
「あんたが綾乃ちゃんかい?私は上の新井だが真一さんにタンスを直してもらってね、でもお礼は受け取ってくれなかったんだよ、笹原のじいさんから来てることを聞いてね、これは俺が作ったこんにゃくだ、食べてくれ」そう言ってこんにゃくを渡すと帰って行った。
次の日は違う新井さんが来た「うちは階段を修理してもらってね・・・」日本ミツバチのはちみつをビンでおいていった。
「真一お祖父さんはみんなに慕われてたんだね、それに腕のいい大工さんだったのかなあ」
「そうね、お祖父ちゃんはみんなに愛されていたみたいね、よかった」
「ちなみにこの別荘は完全に綾乃さんの家になってますね」
「私はそんなつもりはありませんよ」
「分かってますよ、でもみんなが綾乃さんを歓迎してくれてよかったです」
「新さんは優しいですね…………私は当分帰らないつもりなのでよろしく」ニッコリ微笑む。
「えっ……はい……いいですけど……」ちょっとだけ心が切なくなった。
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