第24話 時の流れは・・・

慌ただしく1週間が過ぎる。綾乃さんはバスで買い出しへと出かけて行った。

水道の出がますます悪くなったので僕は地域の世話役を訪ねる。

訪ねた相手はみつ子さんから聞いていた笹原さんだ、大きな家で庭の手入れをしていた。


「あんたが真一の別荘を買った人かい、孫の綾乃ちゃんも来てるそうだがあんたはその身内かい?」


「いえ違います、たまたま僕が別荘を買っただけでまったく関係ありません。ですが突然訪ねてこられて、なんか事情があるみたいで追い返すわけにもいかなくて…………真一さんは綾乃さんの写真を大切に飾ってあったので気が済むまでいてもらうことにしました」


「そうかい、そりゃあ真一もよろこんでるだろうよ、いつも会いたいって言ってたからなあ。もう少し早く来てくれればよかったんだがね」


「綾乃さんも、もっと早く来れればと言ってました」


「じゃあ真一が喜ぶように綾乃ちゃんを頼むよ、私が口を出すことじゃないと思うが、真一とは幼馴染でね」笹原のおじいちゃんは少し笑った。


「はい、私にできることはやってみます」丁寧におじぎをした。


「水道の出が悪いんだって?じゃあ付いてきな」笹原さんは道具ををもって家の前の道を山の方へ歩き出す。


「この上に湧水があってな、そこから真一が水を引いたんだよ」


10分ほど山道を登るとうっそうとした茂みの中に岩場があり湧水がたまっている。白い結晶のような大きな岩が長年の水でくりぬかれプールのようになり澄んだ水が静かに溜まっている。その先にはミズゴケがびっしりと生え水がポタポタと湧き出していた。まるで神しか近づいてはいけないような神聖な場所に思える。

その生まれたばかりの水のたまる場所にカゴのようなものが沈められている。

そこからパイプが引いてある。笹原さんはそのカゴを引き上げると掃除のやり方を教えてくれた。


「こんな素晴らしい場所から水が引いてあったんですね」感動してあたりを見渡した。


「真一は綾乃ちゃんにも見せてやりたいと言ってたがねえ……」


「そうですか、僕が綾乃さんをつれてきてもいいですか?」


「あんたなら真一もよろこぶだろうよ」笹原さんはうなづきながら言ってくれた。


「明日綾乃さんをつれてきます」僕はお辞儀して微笑んだ。


「別荘の風呂の外に川に水を流すための蛇口があるはずだ、そこを開いて前の小川へ水を流すんだよ」


「えっ、水を流してしまうんですか?もったいないような気がしますけど」


「そうだろうねえ、都会の人は水道代がかかって大変だろうからね、しかしここじゃあ上で生まれた水が、引きこんだホースを通って小川にもどっていくだけの事さ」


「言われてみると確かにそうだ……」


「水は流れてないと死んでしまうのさ、だから生きてる水を生きるために少し分けてもらうだけなのさ」笹原さんは自然のいとなみをやさしく教えてくれた。


「色々と教えていただいてありがとうございます、でもこの山となんのゆかりもない私が水を分けてもらっていいんでしょうか?」


「大丈夫だよ、俺の山だからな」笹原さんは笑っている。


僕はお礼を言って別荘へ戻ってきた。


お風呂の外に行ってみると確かに蛇口がある。水を出してみると少し赤い錆混じりの水が出たが、徐々にきれいな水が出るようになった。ツーッと糸のように水を小川へ流し手を合わせて水に感謝をした。

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