第23話 心の居場所って

「あのう……新さんって出身は?」


 話が変わってホッとした僕は、ほとんど他の人に話すことのない自分の家族の話をした。


「僕は九州の田舎の出身です、両親は果樹園をやっています。年の離れた兄が1人います、でもあまり仲は良くありません。兄は結婚して果樹園をやってます。

大学を卒業した時に里帰りしたんですが、兄の奥さんは僕が大学に行くのにお金がたくさんかかったから、帰ってきてもわたす物は何もないと言ってました。

両親も何も言わず申し訳なさそうにしてましたが、兄夫婦と老後を過ごさなければいけないので……」覚めたコーヒーを少し飲んだ。


「でも両親には大学まで行かせてくれたのでとても感謝しています。

ただもう帰る家は無いんだと思いました。

そのこともこの別荘を買おうと思ったきっかけになったかもしれません」話し終わると僕は少し寂しそうな顔になってしまった。


「そうなんですか、じゃあもう田舎へは帰らないんですか?」


「はい…………」少しだけ俯いてしまう。


 綾乃さんは僕を慰めるように自分の話を始めた。


「母の両親は高崎で小さなレストランをやっていたそうです、安くて美味しいと評判だったらしいです、でも経営は大変だったらしくて母は学生のころからよく手伝っていたそうです」


「だから綾乃さんも料理が上手なんですね」


「母みたいには上手くないですけどね」すこし笑った。


「父はそのレストランによく食べに来てたらしいです。でもお祖母ちゃんが体をこわして亡くなると、お祖父ちゃんも追っかけるように亡くなったそうです。母は父と結婚してとても幸せだったそうです。

父は会社を作ろうとしていた時、交通事故にあって亡くなってしまいました。取引相手で父に出資までしていた今の父は、困っていた母と私を助けてくれたそうです。やがて母は今の父と再婚しました。

母がいるときは父もやさしくていいお父さんっていう感じでした。でも母が乳がんで亡くなってから、何かと命令口調になって怖い感じになりました」


綾乃さんは少しだけ強張った表情になっている。


「大学にも行けって言われたんだけど、お金を出してもらうのが嫌で働きたいって言ったんです。そしたら仕事を覚えるなら父の会社でって言われて、二年ほど働きました。すると優秀な社員と結婚して会社を継いでくれと言われました。

私だんだん嫌になって、父と大喧嘩して家を出てしまいました。もう何もかも嫌になってしまって……そしたらお祖父ちゃんのことを思い出したんです、それで会いたくなって」


「そうですか……色々とあったんですね」


帰る場所のない二人のような気がして、少し心が近づいたような気がした。


「綾乃さん、帰りたくなるまでいていいですよ、ここでよければ」


「本当!とっても嬉しいです、だって今一番居たいところはここなんです」


「………………」なんか少しやらかした……という気がした。

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