第18話 君の瞳には何が映っているの?
食事の後をかたづけた綾乃さんは「お風呂先に入ってもいいですか?」と聞いてきた。
「いいですよ、僕はもう少しやることがあるので」
「はーい」綾乃さんは買い物した袋をもって下の階へと降りて行く。
待っていたようにスマホはポケキャバのメッセージを表示した。
『元気?』
『はい、仕事は終わって食事も終わりました』
『しっかり体に良い食事をしましたか?』
『はい、野菜も食べたのでたぶん大丈夫だと思います』
『料理作ってあげたいけど、苦手なのごめんね』
『ありがとう、気持ちだけで十分です』
『寂しくない?』
『なんとなく今は大丈夫』
僕は何となく嘘が積み重なっていくような気がする。「もうポケキャバをやめようかな……」そう思ったが、綾乃さんがいなくなったらどうなるんだろう?そう思うと怖くてやめることができなかった。
やがて綾乃さんが階段を上がってリビングへとやってくる。
「どうしたんですか綾乃さん?全身ピンクですけど!」
「やっぱり変?薬局で500円の特売品だったの、パジャマにいいかなと思ったんだけど……ひどすぎますか?」
「いえ、可愛いです、ただ目がチカチカしますけどパジャマなら問題ないと思います」
「ですよね……思ったより暖かいしいい感じです」
ファッションとはほとんどかかわってこなかった僕でさえどうだろうと思うスウェットの上下だが、少し幼く見え可愛くなってしまう。美人ってどこまで得なんだろうと思った。
コーヒーを入れた綾乃さんは本棚をじっと見ている。それを見た僕は「はっ」とした。
「ちょっと待って、和室に入りますよ」そう断って押し入れを開け写真立てを持ってくる。
「これに心当たりがありますか?」綾乃さんに手渡した。
写真立ての色あせた写真を見た綾乃さんは驚いて急に涙ぐんだ。
「これ父と母と私です、どこにあったんですか?」
「実はその本棚に飾ってあったんです、すごく大切そうに見えてこの本棚も写真も捨てられなかったんです」
「ありがとう新さん、お祖父ちゃんはやっぱり私たちのことを大切に思っていてくれたんですね……それが分かってとっても嬉しいです」綾乃さんの長いまつ毛には涙が絡み付いている。
「そうですか、言われてみると女の子は綾乃さんの面影がありますね、それにお母さんはとっても美人だ」
「今は独りぼっちだけど、愛されていたことが感じられてとてもうれしいです」
「お祖父さんは毎日写真を見ていたんでしょうね……」俺は思わず漏らした。
「もっと早く来てお祖父ちゃんと話したかった」綾乃さんは指先で涙をそっと拭いた。
この日から綾乃さんの祖父ちゃんが見守ってくれてるような感覚が目覚めた。
僕は親しみを込めて祖父ちゃんと呼ぶ事にした。
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