第16話 恋の種がポトリ
翌朝、綾乃さんはグッと距離感を詰めた感じで視線を投げかけてきた。
「おはようございます、きのうはとってもいい話をありがとうございました、お礼に朝ご飯を作りますね」嬉しそうにキッチンへ向かう。
僕は「うーん…………」首を横にして考え込んだ。
しばらくしてテーブルに並んだ朝食を見て不覚にも笑顔になってしまった。
わかめとキャベツのホットサラダ、卵焼き、お味噌汁だ。材料は同じものしかない、しかし朝だからこそのほっとするおいしさだ。
シンプルだが僕の味覚を優しく抱きしめるように刺激する。
「同じ材料なのになんでこんなにおいしくなるんですか?」
「よかった、気に入ってもらえて」嬉しさをまぶたににじませ目じりを下げた。
「とってもおいしくて安心する味です」うれしさと卵焼きでほほをふくらませる。
「買い置きの材料に乾燥わかめやごま油・めんつゆとか、あまり自炊しない人は買わないものが見かけられますけど、彼女さんのアドバイスですか?」
「昨夜話したでしょう、彼女なんているわけないです!」思わず不機嫌な表情になってしまった。
「そうですか、でも少し女性の意思を感じたんですけど」少しだけ眉を寄せている。
「そうですか?……ああ先輩の彼女、瑠美さんからアドバイスで、そのメモを見ながら先輩が買い物かごに色々と入れてたみたいです、だからお粥やカゼ薬もストックされてたんですよ」
「そうだったんですか、新さんって愛されてるんですね」綾乃さんはなぜか少し安心している。
「先輩には何かとお世話になってます」
「でも、もっと野菜を食べないと体に良くないですよ」上目遣いで見ている。
女性に心配されるなんて経験が無かったので、少しだけ不思議な感覚だ。
「一人ではあまり作らないんで……そうだ!買い出しに行ってもらえませんか?食費を出しますから」
「そうですか、私も色々と必要な…………」綾乃さんは少し俯いた。
「よかったらバイト代を半額先にお支払いしましょうか?」何気なく聞いてみる。
「ほんと!それすごく助かります、着替えやほかにも必要なものがあって」声が嬉しそうにリビングへ響く。
僕はサイフから5万円と食費の2万円を出して綾乃さんへ手渡した。
「ありがとう、すっごく助かります!」パッと花が咲くように笑顔になった。
うっ……可愛いぞ………心の中で呟き、壁に目をそらす。
「そこの壁にバスの時刻表が貼ってあるんだけど、ここはバスの便が少ないからなあ……」
綾乃さんは立ち上がって時刻表を見ながら考えている。
「じゃあ早速行ってきていいですか?データ入力は大丈夫ですか?」
「はい、まだ日にちに余裕があるから大丈夫ですよ」
「行ってきますけど、夕食に食べたいものがありますか?」
「おまかせしまーす」
「了解です!」綾乃さんは小さなバッグを持って出かけて行った。
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