第12話 身の上話はドラマだ
「実はお父方のお祖父ちゃんなんです、本当の父は私が五歳の時交通事故で亡くなりました。母は私をつれて今の父と再婚したんです。
でもその母も最近亡くなってしまい、今は血のつながらない父と二人で暮らしていたんですが、どうしてもうまくいかなくて……」彼女は寂しそうにうなだれた。
「それでお祖父さんを訪ねて来られたんですね、ごめんなさい立ち入ったことを聞いてしまいました」
「いいんです、突然来てご迷惑をかけたので聞かれて当然です」虚ろな目をして窓の方を見ている。
「これからどうしますか?」
「分かりません、どうしたらいいのか」すっかり沈み込んでいるようだ。
やっとお祖父さんの居場所が分かったのにすでに亡くなっている、しかも体調も良くない、僕は綾乃さんが少し心配になった。
「私、家出同然で出てきてしまったんです、なのでスマホも置いてきたしお金もあまり持っていなくて……」
「……!……」僕は目を丸くして綾乃さんを見ると、そのまま固まった。
「実は私、頼っていくところもないんです……」絶望に満ちた表情をしている。
僕は困り果てた、しかし追い返すわけにもいかなそうだ。
しばらく考え込んだが、ふと仕事のことを思い出す。
先輩から送られた資料に面倒なデータの入力作業がかなりあった。
「あのう、綾乃さんってパソコンにデータを入力することができますか?」
「えっ……?」不思議そうに顔を上げた。
「僕は自宅で仕事を受けているんですが、簡単なデータの入力作業が思ったよりたくさんあって困っていたんです、もし引き受けていただけるなら、しばらく住込みでアルバイトをしていただけるとありがたいんですが」
「本当ですか?」綾乃さんは風が起こりそうなくらい、長いまつ毛を揺らして僕を見た。
「はい、もし全部入力してもらえたら10万円程お支払いできます」
「でも私にできるでしょうか?」
「普通に文字が打てれば大丈夫です」
「ありがとう新さん!」
綾乃さんは両手で僕の手をにぎり足をバタバタさせて喜んでいる。
僕も明るくなった綾乃さんを見て少しうれしくなった。
「奥の和室は綾乃さんが使ってください、僕はリビングで大丈夫なんで」
「えっ、そんなの申し訳ないです」可愛い唇に力が入る。
「いえ、その方が何かと都合がよいのでそうしてください」
「はい、ではお言葉に甘えてそうさせていただきます」
笑顔を見せてくれた綾乃さんに僕は何故かほっとした。
「……ん………」なぜなんだろう?この不思議な感覚は?
心に大きな疑問符がくっきりと浮かんだ。
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