第9話 出会いは突然に

買い物をするために初めて町営バスへ乗ってみる。淡い緑色のバスは小さめで可愛かった。

スーパーへ行き足りないものを色々と買って、両手いっぱいの荷物を抱えてまたバスに乗り別荘へ帰る。


「やっぱりバスでの買い物は限界があるなあ」なれてきた独り言がバスの中で一緒に揺れている。


ふと後ろの座席を見ると、若い女性が一人乗っていて窓の外を見ている。こんな場所に似合わない雰囲気の人だと思った。

別荘近くのバス停で下車すると、その女性も降りて来た。

ほかの別荘へでも行くのかと思ったが、ジロジロ見るわけにもいかない。

急ぎ足で両手の荷物をゆらしながら帰ってきた。


しばらくすると「ピンポーン」玄関のチャイムがなる。おそるおそるドアを開けると先ほど同じバス停で降りた女性が立っている。


「あのう、突然すみません、相原真一という方をご存じないでしょうか?このあたりの別荘に住んでいると聞いたんですが」


僕は一瞬あの黒い外車の男を思い出したが、あの男とは人種が違うように感じた。


「相原真一さんはこの別荘の前の持ち主です、もう亡くなられて売りに出され、今は僕が買い取って住んでいます」


彼女の顔から血の気がスーッと引いて、その場に力なく座り込んでしまった。


「お祖父ちゃん亡くなってしまったんですか…」彼女はつぶやくように漏らした。


僕は落胆している彼女を見て少し心配になっている。

この別荘に初めて来たとき、この家が誰かを待っていたように感じたのは彼女のことかもしれないと思った。


「すみません、僕には何もできませんが中を見られてもいいですよ、と言っても

もうほとんど何も無いですけどね」


彼女はツーッと落ちる涙を指先で拭いて俺を見ている。


「お祖父ちゃんの見ていた景色くらいは観れるかもしれませんよ」優しく言葉をかけてみた。


「ありがとうございます、お言葉に甘えて少しだけお邪魔します」彼女はコロコロと引いてきた荷物を玄関に置いて、室内へゆっくりと入って来た。

リビングに入ってくると、本棚を見て少し不思議そうな顔をしたがそのまま室内を見渡している。


「お祖父ちゃんここで1人で暮らしていたんですね………」沈みかけた心から声を吐き出すように言った。


リビングのテーブルへコーヒーを出すと、お辞儀をしてそのコーヒーを温まるようにして少し飲んだ。


「遅かったです……もう少し早く来れたら……」


何か事情はありそうだが、何も聞かないことにする。それよりもうこの時間では帰りのバスは無い、彼女はどうするのだろう。

よく見ると彼女は少し震えている。顔も青ざめていて、カゼでもひいているのではないだろうか。そう思った瞬間彼女はスーッと椅子からくずれ落ちた。


「大丈夫ですか?」倒れこむ彼女を支えた腕から伝わってくる感じでは、熱があるのはあきらかだ。


「すみません、よかったらこっちに来てください」そう言って彼女を支えながら和室へとつれて来る。先輩の持ってきた瑠美さん用の寝袋を広げ、彼女を寝かせた。


「すみませんカゼをひいてしまったみたいで……」彼女は無抵抗でふるえている。


もう一つの寝袋やタオルケットなどをかけて、彼女が寒くないようにした。

彼女は死んだように眠った。


「……………………」僕は台詞を忘れた役者のように佇んだ。

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