第8話 事件は突然に2

今日は朝から晴天だ、気分もそれなりに晴れた気がする。

家の周りを掃除していると、一台の黒い外車が坂道を下りてくる。中からサングラスをした怖そうな男が車から降りて来た。

お金の箱を思い出して、何か事件に巻き込まれるのではないかと不安になる。

男は真っすぐにこちらへ向かって歩いてきた。


「兄ちゃん、ここに住んでる爺さんは知らねえかい?」不祥髭の顎をゆっくりと触りながら聞いてきた。


「もう亡くなられて、この別荘が売りに出たので自分が購入して住んでるんですが」出来るだけ冷静に言葉を吐き出す。


「そうかい、爺さん死んじまったかい、じゃあしょうがねえな」そう言うと車へ戻って行く。


ほっとした、しかし彼は思い立ったように踵を返す。

目の前へ来ると火のついたタバコを乱暴に投げ捨て足で踏み消した。


「もし若い女が訪ねて来たら俺に電話しな!」そう言って携帯電話の電話番号を強引に押し付け帰って行った。


「うーん……なんだこれ、いやな予感がする」独り言がまた増えていく。


その夜は日本髪に和服を着た『極道の妻』風の女性が訪ねてくる夢を見てうなされた。しかし、その後は何事も起こらなかったので少しだけほっとした。


やっと光ケーブルの工事が無事に終わり、別荘はネットにつながる。

早速先輩にメールを打つ。返事が来てリモートがつながった。


「おーっ見えた見えた、思ったより顔色がいいじゃないか」


「これからいつでも会話できるのでよろしくお願いします」


「了解、早速で悪いんだけどさ、仕事頼んでもいいか?」


「いいですよ、いつまでも遊んでいられないんで」


「OK!早速資料をメールに添付して送るよ」


「分かりました」


回線がつながり、仕事が始められることに喜んだ。


「よかった、日常が帰ってくる」胸をそっとなでおろした。


仕事用のデスクもととのい、届いた資料を基に仕事を始める。

パチパチとキーボードの音が別荘の中に響き、室内が色を取り戻したような気がした。

これほど仕事が楽しいと思ったことは、これまで無かったかもしれない。


『元気になったみたいね』心結もうれしそうだ。


なんとか田舎暮らしが進み始めた、多少の不安を残しつつも。



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